第33章 うつつ夢列車
「で? どの列車なんだ?」
「"無限列車"っていうのに乗れば、煉獄さんに会えるはずなんだけど。既に煉獄さんは乗り込んでいるらしいんだ」
「その人に会うのかよ。じゃあ切符買ってくるから静かにしてるんだぞ」
「わかった! ありがとう善逸!」
「でかい声出すなってっ。それより炭治郎は伊之助を見ててくれよ。…刀隠してると歩き難いな…」
もたもたと切符売り場に向かう善逸を見送りながら、改めて炭治郎は駅内を見渡した。
出発時刻となると汽笛を鳴らして走り出す黒い鉄の塊。
此処にその炎柱である煉獄杏寿郎が乗った無限列車も停まるとのこと。
(煉獄さんが任務に就いているってことは、多分…)
そこには、継子である彼女の姿もあるはず。
また会える。
そう思えば自然と口角は上がり、炭治郎は胸の内を弾ませた。
「──うぉおおお! 腹の中だ!! 主の腹の中だ!! 戦いの始まりだぁああ!!」
「うるせーよッ!!」
都会慣れしている善逸のお陰で、無事目的の列車に乗り込むことができた。
ひらりとマントのようなものを背中に被せて雄叫びを上げるは、未だ列車を土地の主だと信じてやまない伊之助だ。
マントは炭治郎が誘い着せたものだった。
体に纏わり付かないものなら伊之助も譲歩できたらしく、ひらひらと背中で靡く大きめの布のお陰で日輪刀の柄はどうにか隠すことができている。
炭治郎の人柄もあってこその成果。
怒り混じりに突っ込む善逸では説き伏せられなかったはずだ。
「明るい! 速ぇ!! 人がごまんといやがる!!」
「すいませんすいません! いいからこっち来い馬鹿!」
窓ガラスに張り付く伊之助をどうにか引き剥がし、フンスフンスと鼻息荒く騒ぐ体をどうにか引き摺る。
善逸の奮闘に炭治郎も苦笑しつつ、辺りに視線を配りながら通路を進んだ。
列車はもう走り出している。
早く炎柱と合流しなければ。
「柱だっけ? その煉獄さん。顔とかちゃんとわかるのか?」
「うん。派手な髪の人だったし、何度か会っているから匂いも覚えた」