第33章 うつつ夢列車
「あっ刀! 刀を持ってるぞ!」
「警官だ、警官を呼べ!!」
世は大正。
戦国とは違い、帯刀が当然とされる時代ではない。
ぎょっとした顔で指差す駅員達に、善逸もまたぎょっと青褪めた。
「やばっ! やばいやばいやばい! 逃げろ!!」
「んグっ!?」
「ぜ、善逸!?」
伊之助の顔を腕で引っ掛け、炭治郎の服を引っ掴み、善逸は雷のような速さで逃げ出した。
「──はぁっ…どうやら撒いたな…」
「まさか伊之助の騒ぎにあそこまで怒られるとは…」
「は? 何言ってんだ炭治郎。あれは日輪刀に怒ってたんだぞ」
「え?」
相手は大人でも、剣士である善逸達の方が一歩上手だった。
どうにか駅員達の目を掻い潜り、ホームの隅で一息つく。
これだけ人の多い場所だと、隠れ蓑となる場所もそれなりに見つけることができる。
「政府公認の組織じゃないからな、俺達鬼殺隊。堂々と刀持って歩けないんだよホントは。鬼がどうのこうの言っても中々信じてもらえんし。混乱するだろ」
政府非公認であるが故の自由さはあれど、同時に不便さも存在する。
そもそも政府が悪鬼という存在を認めていたならば、一般市民の知識に植え付けられていても可笑しくはない。
彼ら常人が鬼という存在を認識していない理由の一つはそこにあるのだ。
「そんな…鬼殺隊も皆、一生懸命頑張っているのに…」
「まぁ仕方ねぇよ。とりあえず刀は背中に隠そう」
しょんぼりと肩を落とす炭治郎の意見には賛同したくもなるが、こればかりは現実を見なければ事は進まない。
善逸に言われるがまま、各々の得物を隠す手段となった。
「フフン! これならどうだ!?」
「丸見えだよ。服着ろ馬鹿」
両刀使いの伊之助は、柄を包帯のようなもので巻いて背中に隠しても、上半身は丸裸。
立派な二本の柄がにょきりと腰から生えているのが丸見えとなる。
だからと言って猪の被り物も目立つところ、絶対に外さないのが伊之助の拘りなのだ。
服を着ろと言っても野生児である彼には右から左だろう。
何もしないよりはマシだと、善逸は溜息一つで見て見ぬフリをすることにした。