第33章 うつつ夢列車
❉ ❉ ❉
「な、な…ッンなんだこの生き物はァア!?!!」
茜色の空がすっかり闇へと飲まれる頃。
とある駅のホームの電灯に照らされた鉄の塊──列車を見た猪頭の少年が驚愕の声を上げていた。
「こ…こいつはアレだぜ、この土地の主(ぬし)…この土地を統べる者…」
ぷるぷると震える手で指差す先は、本人の人生で一度も目にしたことのない蒸気機関車が物静かに佇んでいる。
その無言の佇まいでさえ言いようのない威圧を感じるのだと、過敏な感覚を持つ鬼殺隊剣士──嘴平伊之助は外気に晒した肌を震わせた。
「この長さ、威圧感、間違いねェ…今は眠っているようだが油断するな…!」
「いや汽車だよ知らねぇのかよ」
「シッ! 落ち着け!」
「いやお前が落ち着けよ」
「まずオレが一番に乗り込む!!」
眠っていると断言しながら、堂々たる声量で告げる伊之助を冷静に突っ込んでいるのは我妻善逸。
普段は情緒不安定な発言も多いが、一般的な感覚も兼ね備えている少年である。
「待て伊之助。この土地の守り神かもしれないだろう。それから急に攻撃するのもよくない」
「いや汽車だって言ってるじゃんか。列車わかる? 乗り物なの。人を運ぶ。この田舎モンが」
更には二人の間できりりと表情を引き締め告げるは、木箱を背負った少年、竈門炭治郎。
誠実そうな顔をしながら、とんでもなく斜め方向へと飛ぶその思考回路も、善逸は問答無用で切り捨てた。
伊之助、善逸、そして炭治郎。
同じ年に鬼殺隊へと入隊した同期組である彼らは、一同揃って同じ任務に就いていた。
「ん? 列車? じゃあ鴉が言っていたのがこれか?」
「鴉が?」
「猪突猛進ッ!!!」
「ってやめろ恥ずかしい!!」
鎹鴉が炭治郎に告げた任務。
それこそが列車に関わることだと告げる暇もなく、興奮しきった伊之助が猪の被り物をそのままに列車へと頭突きを喰らわせる。
流石にそんな大騒ぎをしていれば、嫌でも人の目はつくというもので。
「オイ! 何してる貴様ら!!」
「げッ!」
駅員が走ってくるや否や、その目は炭治郎達の所持している日輪刀で止まった。