第33章 うつつ夢列車
シュー!と無限列車の煙突から白い蒸気が上がる。
幾度も幾度も吹き上げる様は、まるでエンジンを蒸かしているかのようだ。
ボォーッ
ボォオーッ
一、二度と汽笛が鳴る。
出立を告げるかのような嘶(いなな)きに、気管を巡った蒸気がやがて列車頭部の左右のシリンダーから噴き出した。
ガタン、と重い腰を上げるように車輪が回る。
ゆっくり、ゆっくりと窓の外の景色が流れていく。
ホームに立つトミとふくの姿も徐々に小さくなる様を見つめて、蛍も笑みを和らげた。
「じゃあ、また来ないとね。私も、この牛鍋弁当を匂いだけじゃなくてちゃんと味わって食べてみたいもん」
トミとふく手製の弁当が入った風呂敷に触れて、蛍もまた思いを馳せる。
いつかは、という曖昧な形でも、しっかりと希望を持つようになった。
そう変えてくれたのは、他ならない杏寿郎だ。
「そうだな。その時はぜひまた来よう」
穏やかな眼差しを蛍へと戻して、杏寿郎も深く頷く。
「今度は、父上も連れて」
同じに曖昧でも、しかと希望を添えて未来を見据えるようになった。
現実を捉えて足を進められるようになった。
そう背を押してくれたのは、紛れもない蛍だ。
どちらからともなく視線を混じえ、言葉なき笑みを交わす。
形には見えなくとも、手を伸ばせば届くことはできる。
夢物語ではない、そんな未来に思いを馳せて。
ボォオオオーーッ!
二人を乗せた列車は、走り出した。