第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは
そうであったらいい、という願望だ。
先程告げた通りの夢物語。
それでも、何も語らない数億光年先の煌めきに、答えの見えない思いを寄せても罰は当たるまい。
生きてゆく為に、見上げ心を休ませても。
「だから共に在るんだ。蛍の傍にも」
「…ぇ?」
星空を見上げ続けていた双眸が、ゆっくりと下りてくる。
誰よりも傍にある緋色の瞳を見つめて、思い返すように杏寿郎はひとつ笑った。
「命ある限り、と言ったが。伝え直してもいいだろうか」
つい先程のことだ。
杏寿郎がいつの出来事のことを口にしたのか、蛍にもすぐに理解できた。
ここに、と。
互いの熱を分かち合いながら、求め重ね合いながら、向けた言葉だった。
わたしのここにいて。
そう告げることさえままならない、途切れ途切れの想いを口にした。
それでもつぶさに拾い上げた杏寿郎は、熱を帯びた声で頷いてくれたのだ。
命ある限り共に、と。
「俺は鬼ではないから、生命を永遠にこの世に繋ぎ止めることはできない。だが燃やし続けることはできる。あの星々のように」
「…杏寿郎…?」
それは、いつかは死ぬということを示唆しているのだろうか。
人間、皆いつかは死ぬ。
そんなことはわかっている。
いちから説明など受けずとも、だから覚悟を持って進んでいるのだ。
理に逆らい永遠を生きる鬼としてでも。
「何、その話…私、そんなこと」
いつか死ぬ話などしたくはない。
わかっていることを今更伝えられるなど。
そう自然と大きくなる蛍の声と固くなる表情に、杏寿郎は咄嗟に片手を振った。
「ああいや、違うんだ! 暗い話をしたい訳じゃない。人の命の尊さは、鬼であるからこそ蛍はよく知ってくれている。そう思っている」
「じゃあ、なんで急に…」
「共にあると言いたかったんだ。…ううむ。恰好がつかなくてすまない。…いや、恰好をつけたかった訳でもないんだが…」
言葉を濁しながら、太い眉尻を上げては下げて。
杏寿郎は困ったように笑った。