第8章 むすんで ひらいて✔
「柱、なら…自分の知らない世界くらい、認める器を持ったらどうなの…っ」
私だって認めたくない。
こんな男に優しさの欠片だって感じない。
それでも、きっと私が見ているのはこの男の氷山の一角だ。
私の知らない不死川実弥が、きっと他にいる。
「私は、あんたが、嫌いだけどっあんたをあのお館様が柱にさせたくらいなんだから、それだけじゃないと思ってる」
あのお館様が、ただ鬼を殺したいだけの人間に柱の地位を与えるはずがない。
きっとこの男にはそこに足るべき理由と、資格があったはず。
私の知らない世界でのことだ。
そんな男を簡単に認めたくなんてないけど、すぐ殺すだ死合いだ言う男を褒めたくもないけど。
でも何も知らずに否定はできない。
嫌いではあるけど。
大っ嫌いだけど!
「お館様、だとォ?」
不意に目の前の男の声が低くなる。
血管の浮き出た額を目の前に突き出して、私の顔を覗き込んでくる。
「単なる鬼風情が、あの御方を語るんじゃねぇよ…!」
ぶちりと何かが切れた音。
が、聞こえたような気がした。
あ、まずい。
これは地雷を踏んだな。
「! そこまでだ不死川ッ」
「あっ冨岡さん!?」
私の危機感と義勇さんの察知は同調したらしく。
だけど義勇さんが駆け寄る姿を、私は見ることができなかった。
「洒落臭ェッ!!」
「ッ!?」
ガツン!と鈍くて凄まじい衝撃が目の前に走る。
視界が弾けて輝いて、刹那。
一気に目の前は暗くなったからだ。
「──はっ」
覚醒は急にきた。
がばりと体を起こせば、ぐらりと足元が揺れる。
「っ…!?」
いや、足が地面についている感覚がない。
咄嗟に目の前の何かを支えに掴めば、柔らかなそれが身動ぎをした。
もそりと動いたそれがこっちを向いて目と目が合う。
そうしてようやく、それがなんなのか気付いた。
「…ぎゆ、さん…?」
「起きたか」
…え?
なんで義勇さんの顔が目の前に…あれ。
掴んでるの、義勇さんの肩?
というかこれ義勇さんの背中?
…私、義勇さんにおぶさってる?