第8章 むすんで ひらいて✔
「それに…っ簡単に殺すとか斬るとかへし折るとか言うけどッ私は! 痛いの嫌いだから!」
「あ?」
「体が再生するってことは、その痛みを何度も味わう羽目になるってことだから! そんなのごめん被る!」
本当、柱は私が鬼だからってぽんぽんぽんぽん平気で体壊して。
胡蝶も天元も、伊黒先生にもこの間斬られたし。
痛いのは誰だって嫌だからね鬼だってね!
「テメェ本当に鬼かよ? そんな貧弱な思想は鬼共から聞いたことねぇぞ」
「耳を貸さなかっただけじゃないの…っ」
この風柱ならあり得る。
でも散々他の柱からも聞いた鬼の世間一般な情報は、どうにも私とは違うらしい。
私が他の鬼とは違うのはもうわかった。
でもそれを言うなら、この男だって。
「そんなに、自分の知ってる情報と違うのが、気に喰わないの?」
掴んだ相手の掌は、押してくる力とぶつかって目の前で止まる。
ギリギリと互いの力で動かない力を衝突させたまま、目の前の形相を今一度見返した。
血走ってかっ開いた目。
顔にまで及ぶ傷だらけの痛々しい跡。
殺気を纏った鬼のような形相。
この男こそ殺人鬼という言葉がぴったりだと思うくらい、恐怖を煽る顔だ。
なのにこの男が纏っているのは、とても優しい色なんだ。
ねちねちと小姑みたいなことを言う伊黒小芭内は、灰みの残る麹塵色(きくじんいろ)。
蛇の鱗を表すような色だ。
一夫多妻制の筋肉忍者である宇髄天元は、金に近い黄支子色(きくちなしいろ)。
その派手さを表すような色だ。
今まで見てきた人達は、なんとなくだけどその人の心の内や性格を表すような色だった。
杏寿郎も、蜜璃ちゃんも、胡蝶も、時透くんも、悲鳴嶼行冥も、お館様も。
だけどこの不死川実弥は、少なくとも私の知る印象を持つ色じゃなかった。
白菫色(しろすみれいろ)。
時透くんの白群色より遥かに白に近い、薄くて優しい青紫色。
よく目を凝らさないとわからないけれど、でも確かにそこに在る。誰をも邪魔しない色だ。
…私だって、こんなに色と人間性が違う相手は初めて見た。
最初は嘘じゃないかって目を逸していたけれど。
でも、やっぱりこの男が纏っているのは優しい色なんだ。