第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは
指を頬張り小動物のように膨らむ頬も、そこをじんわりと赤く染めて伏せがちに睫毛を落とす肌も。
牙を掠めないようにといじらしく舌を突き出し這わせる様も、唾液で濡らした唇で恭しく口付けてくる姿も。
一つ一つの仕草を見落とすまいと、間近で見つめる。
互いの熱を交わし合っている唇同士の逢瀬も官能的だが、こうして一歩退いて見つめる蛍の愛撫は別の煽りを魅せてくる。
思わずこくりと喉を鳴らした。
「ちゅ…っは…」
「夢中になって…愛いな、蛍は」
「っん…だって…杏寿郎…だから…」
空いた親指の腹で頬を撫でれば、恥ずかしそうに離れた蛍の唇からつぷりと銀色の糸が垂れる。
「俺だから?」
「きもち、よく…させたくて…ゅ、指で気持ちいいって可笑しいかな」
「いいや。とても気持ちいい。もっと触れてくれ」
「んぅ…っ」
「そう。奥まで咥えて」
「ん、ん…ふ、」
「蛍も気持ちいいだろう? こことか」
指の腹でゆっくりと小さな口内を撫でていく。
粘膜が特に柔らかい舌の裏筋や上顎をぬるぬると優しく撫でれば、じんわりと緋色の瞳に涙が浮かぶ。
太い陰茎を咥える時程の太さはないが、ばらばらに揺らし刺激してくる指は十分に翻弄させられた。
はふりと熱い吐息が蛍の唇の隙間から零れ落ちる。
飲み込みきれずに溢れた唾液が、つつ、と線を引くように続けて落ちた。
勿体ない、と自然と顔を寄せて零れる体液を舌で受け止める。
ぬるりと口内から抜いた唾液塗れの己の指も、ぺろりと見せつけるようにして舐め上げた。
「…ぁ…」
「蛍の口の中は狭くてあたたかくて、柔らかいな…ここと同じだ」
「あ…ッ?」
唇と唇が触れ合う距離。
炎の双眸に魅入っていた濡れた緋色の瞳が、不意に揺れた。
蛍の視線を直に受けたまま、逸らすことなく杏寿郎の指が一人でに辿り着いていた場所。
開花した蜜壺の入口を、ししどに濡れた指がなんなく侵入していく。
「ぁ、ぅ…んっ」
「濡れそぼる具合も同じだな。すんなりだ」