第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは
蛍の"色視え"もそれと似たようなものだろう。
誰に言うこともなく一人結論付けた杏寿郎は、それ以上蛍の視覚を掘り下げることはしなかった。
八重美の捜索時は決め手には欠けたが、助力程度には力になった。
それくらいでいいのだ。
蛍の持つ血鬼術は、易々と上回る程の驚くべき能力を持っているのだから。
蛍自身が、色視えのことを話したのは杏寿郎が初めてだと言っていた。
誰にも漏らさないようにしていることを、安易に周りに散らすことなかれ。
それが杏寿郎の下した結論だった。
「でもね、ただそこに在るんじゃなくて。特別に見える色もあったの」
そんな数多の人々の中で、稀に強い色を持つ人もいる。
蛍の中で何よりも印象的に残っていた二人の絆の色があった。
「炭治郎と禰豆子。二人の色は、今まで出会った人達のどんな色とも違ってた」
「ふむ…それは興味深いな」
「特別印象に残る色をしていた訳じゃないよ。ううん、綺麗な色だったけど…二人でいて、初めてひとつになる。そんな色をしていた」
炭治郎の纏う色は、泣きたくなる程に優しいものだった。
何をも無償に受け入れてくれるような抱擁感を持つ。
それでも何より自然な発光色を生むのは、禰豆子の持つ色と交じり合う時だった。
「一人だけじゃ足りないの。禰豆子がいて、炭治郎がいて。二人が傍にいることで初めて意味を成す色をしていた」
抽象的なものではない。
それは言葉通りの光を放って蛍の目に映し出ていた。
「それと同じだなぁって思ったの」
「…というと?」
「杏寿郎が、私と見る世界が輝いて見えること」
そんな兄妹二人のような、明確な色彩で伝えてきた絆の証のようなものではない。
それこそ抽象的なものとなってしまうが、それでもふと感じ得たこの感情に嘘はない。
「私が、杏寿郎越しに見た世界を綺麗だと思えたこと」