第8章 むすんで ひらいて✔
「そんなことより早く目的を終わらせたらどうだ」
そんなことよりって。
義勇さん、それ心外。
「そんなことよりって! 蛍ちゃんが一生懸命悩んでるのに軽く流しちゃダメよ!」
あ、蜜璃ちゃんが心の内を代弁してくれた。
優しいなぁ。
「軽く流したつもりは…」
「でも"そんなことより"って言ったでしょ? その言い方は悲しくなるからメッ!」
「……」
「あ。見えてきた」
蜜璃ちゃんに子供みたいな叱られ方をする義勇さんを視界の隅に、見えてきた目的地に荷物を改めて抱き直す。
あの隠の事件以来、義勇さんと蜜璃ちゃんはちょっと仲良くなった気がする。
仲良くというか、蜜璃ちゃんが義勇さんに対して距離感がなくなったというか。
散々私に対して罪悪感を募らせる蜜璃ちゃんを何度も励ましていれば、そうもなるのかな。
うん、良いことだ。
ただ今は静かにしていて欲しい。
「蜜璃ちゃん。義勇さん。しー」
二人に向かって人差し指を口元に立てて見せると、ぴたりと会話が止まる。
よし。
「お邪魔しまーす…」
カラカラと引き戸を開けて玄関先を覗き込む。
…よし、誰もいない。
抜き足、差し足、忍び足。
一歩二歩三歩で辿り着く玄関口に、抱えていた荷物をそっと置く。
以前は床に置くなんて、と思ってたけど今はそんなこと言ってられない。
一にも二にも目的達成が優先だ。
音を立てないようにして後退り。
玄関の戸を跨いで外に出て、ようやくほっと笑顔で振り返った。
「よし、終わっ」
「よォ」
振り返った先に、見守ってくれてる蜜璃ちゃんと義勇さんはいなかった。
いや、いたんだ遠目に。
ただそれ以上に至近距離で仁王立ちしている人に、視界は遮られてしまっていただけで。
「懲りずにまた来やがったなァ」
バキボキと拳の骨を握り鳴らす、目ん玉かっ開いた傷だらけの男。
風柱の不死川実弥、その人に。
…うわ。