第8章 むすんで ひらいて✔
姉さんを殺した鬼の仇を打つまで死ぬ気はない。
その目的を果たす為ならば、自分の手をいくら血で染めても構わないと思っている。
だからあの鬼の体に何度刃を突き立てようと罪悪感なんてなかった。
あの鬼も同じことをしたのだから。
同じ酬いを受けて当然だと。
『私も…胡蝶しのぶに与えられた行為を簡単には消せない』
なのに気付いてしまった。
人ではない者なのに、そこに見覚えを感じたのは人の顔だったと。
あの恐怖を映す瞳は、鬼に毒牙を向けられた人と同じものだったと。
私が彼女に与えていたのは、鬼が人にしていたことと同じだった。
それを望んでいたはずなのに、あの時悟った自分に愕然としてしまった。
私の心を滅多刺しにした、姉さんを奪った鬼と同じ。
あの鬼にとって私は捕食者側なのだ。
鬼に同情なんてしたくない。
哀れみなんて馬鹿馬鹿しい。
根本にある私の思いは、優しかった姉さんとは似ても似つかないもの。
きっと一生私は姉さんのようには生きられない。
それでいいと、あの鬼に背を押されてしまった。
そこに私の体の奥底にある鬼への嫌悪感は反応しなかった。
その事実に気付いてしまったから、どうしようもなく苛立つのだ。
あの鬼と、
「…未熟者」
自分自身に。