第8章 むすんで ひらいて✔
「絆せるなんて思ってないよ。そんな簡単じゃないこと、胡蝶しのぶがよくわかってるでしょ」
「じゃあなんで話がしたいなんて言ったんですか。わかり合いたいと思ったからじゃないですか?」
「わかり合えるとも思ってない。胡蝶しのぶは、そう思ってた?」
「……」
沈黙は肯定のようなものだ。
彼女も、私とわかり合えるなんて思っていない。
「でも、わかり合えないからと目を背けるのは嫌だった。知りたかった。胡蝶しのぶから見える世界が」
私からは、きっと一生見えない世界だろうから。
「だから話がしたかったんだ」
再び沈黙で返される。
だけどさっきの沈黙とは違う。
すぅぅ、と呼吸音のようなものが…あ。深呼吸してる。
大きく息を吸って吐いて。やがて上がった胡蝶しのぶの顔には笑顔…うわ。
「本当に、人を苛立たせる鬼ですね。貴女は」
笑ってる。
笑ってるけど、思いっきり額に青筋が浮かんでいるのが見える。わかる。
今までの笑顔と全く別物だ。
「ぃ、苛立たせるつもりは…ごめん」
「謝らないで下さい。余計に惨めになります」
「ご、ごめ」
「はい?」
「いえ!」
喋り方も、いつもの柔らかい口調じゃない。
はきはきしていて、相手に余談を許さない感じだ。
「知った顔であれこれと。貴女は私の姉の何を知っているんですか? 否定しないでくれませんか」
「お姉さんを、否定したつもりはないよ。ただ、同情されるのが…好きじゃなくて。それならまだ、そんなふうに怒ってくれた方がいい」
「はい?」
「だから無理に笑顔を向けなくても」
「黙ってくれませんか少し」
理不尽!
急にきたよ理不尽さ!
思わずガン見した胡蝶しのぶの顔は、怒りの笑顔も消えていた。
きつく眉間に皺を寄せて苛立ちを隠せていない。
…もしかしたらこれが彼女の素の顔なのかな。