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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは



「見えてる世界が全てじゃない。そう答えてくれた」

「ふむ…少年らしい言葉だ」

「鬼太郎くんらしいって思う?」

「出会いは短いものだったが、命を賭して裸で向き合う時間を共にした。彼らしいと俺は思う」

「…うん。私も。だから鬼太郎くんと友達になりたいって思えたのかな」

「友達か…」

「別れ際にね、思い切って伝えてみたの。そしたら鬼太郎くんも同じだって応えてくれた」

「そうか…それは安心した」

「え?」


 つい、と蛍の顔が上がる。
 見えたのは、触れ合える傍にある杏寿郎の顔が被さる瞬間。


「君が彼に惹かれていたことは知っていたからな」

「そ…ン」


 声が言葉と変わる前に、呆気なく距離は詰められた。
 くちゅりと湯ではない水音が響き、反射的に蛍の手が分厚い胸板につく。


「んっ…私は、大丈夫だから」

「……」

「っ飢餓も、出てないし」

「そうじゃない」


 胸を押し返そうとする手首を掴み、空いた手でくしゃりと蛍の後頭部のまとめ髪を握る。


「俺が欲しいだけだ」


 何が、なんて野暮な言葉は出てこなかった。
 低く響く杏寿郎の雄みを帯びた声に、どくりと鼓動が高鳴る。
 後頭部を握られそれ以上退けないまま、口内を深く舌で繋ぎ止められた。


「んぅっふ…ッぅ」


 上顎をなぞられ舌を絡ませられると、ぞくぞくと背筋が震える。
 それが善いものだと教え込まれた体が従順に反応を示すのだ。


(きもち、いい)


 飢餓症状が出ていなくても関係ない。
 その気持ちよさを体は欲して、奥底からじゅわりと熱い何かが溢れてくる。


「んッ…だ、め…」

「は…何故?」


 それでも唇の愛撫の隙間に辿々しく告げれば、熱い吐息と共に疑問を返された。


「ここも、ここも、こんなに愛らしいものが目の前にあるのに。手を出すなという方が酷だ」

「っ」


 熱い舌先に、赤く染まった耳の縁をなぞられる。
 後頭部を握っていた手が無防備な項をそろりと撫で下げ、手首を握っていた手が塗れた乳房を包み込む。

 ぴくりと体が震えたのは、逃げだしたいからではない。
 その先の気持ちよさを知っていたから、待ち侘びるように震えたのだ。

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