第8章 むすんで ひらいて✔
「でもそれが姉の意志だったのなら、生きた私が継がなければ。姉が哀れんだ鬼を斬らなくて済む方法があるなら、考え続けなければ」
ぐっと胸が詰まる。
その思いは痛い程わかったから。
死にゆく最愛の人の思いを、繋げる為に。
そうして我武者羅に抗う気持ちが、わかったから。
「だから鬼と仲良くするのが私の夢なんです。貴女とも仲良くしたいんですよ。彩千代蛍さん」
にこりと、いつものように綺麗に笑う。
なのに今までの笑顔とまるで違って見えた。
ああ、なんだろう。
上手くは言えないけれど。
胸が詰まる。
この人の姉への思いは…そこまで強いものなんだ。
自分の意志を、押し曲げる程に。
「……私、は…同情が、嫌いだ」
拳を握り込む。
鋭い爪が皮膚に喰い込んで痛みを伴う。
それでも胸の詰まりの方が苦しかった。
「貴女にとっては、それが優しさだったかもしれない。でも…私には哀れまれることは優しさじゃない」
自分の人生を哀れまれるなんて嬉しくもなんともない。
例えそれが歩み寄りだとしても、私には価値観を押し付けられているようにしか思えない。
そんなに可哀想な人生を送っているんだね、と。
欲してもいない評価を下された気分になる。
そんな私の根性がただ腐っているだけなのかもしれない。
それでもこれは私の人生だ。
これだけは鬼になっても侵されない、私だけのものだ。
「無理にわかって貰わなくてもいい。わかり合えないことなんて、世の中には沢山ある。ただ、これは私の生きる道なだけだから」
そこに、ほんの少しくらい胸を張っていたって、いいでしょう。
「仲良くって、何? 表面上にそうやって笑い合って、鬼と人とで手を取り合うこと?…それなら…私は、要らない」
表面だけの、上辺だけの世界なんて、人間の時に腐る程見てきた。
人の時はそれが必要なこともあった。
だけど鬼になってしまった今更、それを欲しようなんて思わない。
「それなら、貴女は貴女のままで、いい。お姉さんの仮面を付けていなくて、いい」
もう私の手の中には何もないから。
守りたいものは何もない。
そんな自分を今更取り繕う必要もない。
「私は、胡蝶しのぶと話がしたい」