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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第31章 煉獄とゐふ者



「どうしたって僕は君のことをよく知らない。だから今までの君自身と、それを見てきた僕自身で判断しようと思う」

「それは…」


 受け入れてくれているということなのだろうか。
 その問いを寸でで飲み込んだ蛍は、今一度鬼太郎の表情を見つめた。

 少年の緊張感を失くすような柔い顔は、この短い出会いの中で初めて見たものだ。
 もしそれだけ歩み寄れているということならば。


「…私と、」


 鬼と幽霊族にそんな結びつきは可能か。
 そんな疑問が浮かぶ前に、口は開いていた。


「友達になってくれる?」


 きゅっと唇の端を結び、緊張気味に見つめる。
 蛍の小さな決意のような問いは、鬼太郎の予想を裏切るような内容だった。

 緩んでいた隻眼がぱちりと開く。
 まじまじと蛍を見上げて、やがて細い眉尻が優しげに下げられた。


「"水木"」


 同じに緩む口から発せられた答えは、蛍の予想も裏切るものだった。


「みずき?」


 きょとんと疑問符を頭に浮かべる蛍に、その耳に届くだけのもので鬼太郎は声を静めた。


「僕が赤ん坊の頃、育ててくれた人間の名前だ」

「え。人間、に? 目玉親父さんは…」

「父さんは僕が生まれた時は既に今の姿だった。自分の体より大きな赤ん坊を育てるのは簡単なことじゃない。そこに手を差し伸べてくれたのが人間の男性だったんだ」

「それが水木さん…?」

「うん」


 何故目玉親父はその名の通り、目玉姿へと成り果ててしまったのか。
 気にはなったが、蛍は深く問いはしなかった。
 己のことを鬼太郎から語ってくれたのは初めてだったからだ。


「今の僕があるのは父さんや仲間達のおかげでもあるけど、彼がいたからこその思いもある。…だからその恩返しになればと、時々人間界に足を運んでる」


 鬼太郎が人間を手助けするのは、昔に自分も助けられたことがあるから。
 その思いを知った蛍は今度こそ驚きを隠せなかった。

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