• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第31章 煉獄とゐふ者



「それでは、お世話になりました」

「それはこちらの方だ。君達のお陰で悪鬼の毒牙が新たな犠牲者を出す前に、止めることができた。礼を言う」

「ではお互い様ということじゃな」

「うむ!」


 生きてきた年数は天と地程に違えど、この炎柱と幽霊族の長は言動が似通っていることが多々ある。
 共に笑う二人に別れの哀愁などない。

 まるでただ茶の席を共にした別れのように。
 さらりと背を向け去っていく。

 唯一見える鬼太郎の隻眼が背を向ける間際に蛍を捉え、ぺこりと会釈する。
 余計な言葉など不要とでも言うかのように、吐く息でさえ残さず消えていく。

 小さな背中が尚遠くなる。


「…っ」


 その前に。


「鬼太郎くんっ」

「蛍…っ?」


 咄嗟に笠を掴むと、蛍は番傘の日陰の下を飛び出していた。

 驚きはしたものの、全身を専用の袴で対策していた蛍を杏寿郎は無理に引き止めなかった。
 笠さえしっかり目深に被っていれば蛍の身に危険はない。
 何度もその目で見てきた経験故だ。


「っ危ない…!」


 しかし鬼太郎は違う。

 陽光は鬼にとって命取り。
 つい先程その事実を知らされたのだ。
 笠を片手で押さえるようにして駆けてくる蛍に、足を止めると慌てて振り返った。

 手を伸ばす。
 少年の手が蛍の袖を握った時、笠は二人の頭をすっぽりと覆うように被り込んだ。


「何して…っ」

「あのね、鬼太郎くん」

「早く日陰にッ」

「大丈夫だから。聞いて、鬼太郎くん」


 驚きを隠せなかった鬼太郎の手は、抱えていた一反木綿を取り零していた。

 人気は少なくとも一般市民もいる。
 出そうになった声を慌てて噤んで、一反木綿は細い目を見開いてぱちぱちと瞬いた。
 その視界から見えるのは、笠に頭を隠した二人の姿だけ。


「話なら日陰でもできるっだから──」

「私ね」


 強く袖を引く手は強い。
 悪鬼ならぬ悪妖怪も倒してしまう少年だ。
 それでも蛍はその場から動くことなく、間近にある鬼太郎の隻眼を見つめた。


「人を喰べる、鬼なの」

/ 3464ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp