第8章 むすんで ひらいて✔
本音を言えば、このまま義勇さんにこの場にとどまっていて欲しい。
胡蝶しのぶと二人きりになりたくない。
でもそれ以上に、胡蝶しのぶの前で曝している自分の醜態を、義勇さんに見せるのが嫌だったから。
「毎月のことだから。彼女に従う」
「…それは、」
「それが、私が此処にいる理由だから」
無口だけれど、ここぞという時に告げる義勇さんの言葉は強い。
強くて、心が揺さぶられる。
だからその前にと遮って自分の主張を通した。
それが全ての理由とは言わないけど。
私が此処で生きていられる理由の一つに、確かに入っていることだ。
「大丈夫。明日また杏寿郎の所へ行く時に、付き添い、お願いします」
頭を下げて頼み込む。
するとようやく義勇さんの手が腕から離れた。
ちゃんと明日はくる。
その時には、いつものように顔を合わせられる。
だから、大丈夫。
「冨岡さんより余程賢いですね、彼女。野暮な真似はしない方がいいですよ」
するりと間に入ってくる胡蝶しのぶの声。
口調はいつもと変わらないけど、見えない圧がある。
暫しの沈黙を抱えた後、やがて義勇さんは腰を上げた。
「明日また同じ刻限に来る」
「うん」
「彩千代が動ける"程度"にしろ。胡蝶」
「善処してみます」
去ると決めれば義勇さんの行動は迷いがなかった。
一度目線を交わしただけで、早々檻の中を出ていってしまう。
そのあまりの潔さに、ちょっぴり寂しくなる程。
…いや寂しくって何。
いつからそんな子供みたいな思考、持ち合わせるようになったの。
義勇さんとはいつも一緒にいるからだ。
うん。きっとそう。
「さて。小言を言う人もいなくなったことですし。本日も身体測定からいきましょうか」
にこにこと呼び掛けてくる胡蝶しのぶの綺麗な笑顔を見返す。
私が此処にいる理由だから、それは甘んじて受ける。
だけど、それだけの為に義勇さんに邪魔をしないよう頼んだ訳じゃない。
「その前に…話が、したい」
「はい?」
無視はできない。
いつかは向き合わないといけないことだ。
じゃないと彼女の"色"は見えても心の内はいつまでも見えない。
「貴女と、話がしたいの」
誰もいない所で。
これは私と胡蝶しのぶの、問題だ。