第8章 むすんで ひらいて✔
「あの一件以来、彩千代の扱いはより厳重になった。安易に外には連れ出せない」
あの一件って…私が鬼だと周りに知れ渡ってしまった時のことだ。
お館様も、そう示唆することは言っていたけど。
本当に私の扱いは難しくなってしまったんだ。
その証拠に、笑顔で反対意見を上げていた胡蝶しのぶの口が止まったから。
「それを言われれば何も言い返せませんね…」
残念、とばかりに肩を下げて胡蝶しのぶが檻の中に身を寄せてくる。
その手には、見慣れた長方形の金属箱。
やっぱり…月に一度の身体調査に来たんだ。
「仕方ありません、諦めましょう。代わりに私が鬼のことを色々教えてあげますよ」
カタリと箱が机に置かれる。
そんな些細な物音だけで、体が反応してしまう。
「鬼がどんなふうに人を襲い、喰らい、殺すのか。事細かに教えてあげましょう」
箱を開き準備を始めながら、ああ。と何か思い出したように胡蝶しのぶの顔が上がる。
「説明せずとも、貴女は知っていましたよね」
一瞬見惚れそうな程綺麗な笑顔で、突き刺すような言葉を投げかけられる。
…駄目だ。
退くな。挫けるな。
お館様は柱を認めさせろって言った。
あの時は不死川実弥や悲鳴嶼行冥しか頭に浮かんでいなかったけれど…何より分厚い壁は此処にある。
胡蝶しのぶ。
彼女を納得させる方法なんて到底思い付かない。
「胡蝶。今は俺が教えている最中だ。途中で割って入ってくるのは止めて貰おう」
「あら。冷たいことを言うんですね、冨岡さん」
「当然のことを言っただけだ。今夜はお前に割く時間はない」
義勇さんの手はまだ私の腕を掴んだまま。
だけどその手の力は、さっきより痛くない。
「今夜も、でしょう? 最近、煉獄さんや宇髄さん達の所に通い詰めてるらしいじゃありませんか。私とも仲良くして頂けると嬉しいんですけれど」
「お前のそれは仲良くとは、」
「義勇さん」
少しだけ腕を自分へと寄せる。
離して、という意図を行動で伝えれば、義勇さんに届いたらしい。ようやくその目がこちらへ向いた。
「今夜は、もう…大丈夫。色々教えてくれて、ありがとうございました」
黒い瞳が丸くなった。