第31章 煉獄とゐふ者
「すごいね。杏寿郎のご先祖様は」
「……」
「それを繋いだ槇寿郎さんも、杏寿郎も。人も、時代だって変わりゆくものだから。変わらずにいられることって、すごいことだと思う」
「…うむ」
時代も人も移ろうもの。
変わらないものなど何もない。
あるとすれば、それは異端である鬼という存在のみ。
(そうではなかったんだな)
しかしそれだけではなかった。
目に見えない形に無いものこそが、変わらず煉獄の名を持つ者達に受け継がれていた。
漠然としていた思いが鮮やかな色を持って杏寿郎の目の前を照らす。
それはなんとも胸をすくような気持ちにさせて、同時にこみ上げるような熱い思いも生まれる。
小さな、それでも確かな熱い灯火が、この胸の内に宿るように。
「儂らは人間界を悪しきものから守っておった気でいたが…そうでもなかったようだのう」
小さな目玉親父には、俯く杏寿郎の顔も伺うことができた。
煉獄杏寿郎という男の知らない顔だ。
自分がそこに踏み込んでいい者ではないことも目玉親父は知っていた。
この場でそれが許されるのは、寄り添うように肌を重ねる蛍だけだ。
ぴょこんと飛び跳ね鬼太郎の膝に戻ると、目玉親父はそわそわと揺れる一反木綿を視線で制した。
「昔から人々の傍で厄災から守っておったのは、きっと煉獄君のような志を持つ者だったんじゃろう」
膝へと戻った父をそっと掌に乗せると、鬼太郎もまた重なる二人の姿から目を逸らし町並みを見つめた。
陽が段々と高くなるにつれて行き交う人々も活気付いてくる。
そんな景色を守り抜いてきたのは、他ならぬ彼らだったのだと。
「そうですね…父さん」