第31章 煉獄とゐふ者
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燃えるような男だった。
幽霊族として人間との距離を置いていた目玉親父は、実際には触れ合っていない。
妖怪とは違う気のざわめきを感じ取り足を向けた先で見かけた光景だった。
刀を持ち、奇妙な技を使う。
その者達によりざわめきの気配は消されたが、彼らもまた刃物を振るう人間。
妖界種族にとって危険な存在になり得ないかと、息を潜めてその後も少しばかり観察を続けた。
「今の煉獄君のように語り合ったことはないがのう。人々を守る為に剣を振るい、悪が世に触れないことが一番だと笑う様は一緒じゃった。だから思い出したんじゃ」
救った母親に告げていた通り、夜が本場の二人は休むことなく闇の中を駆け抜け刀を振るっていた。
顔に奇妙な痣を持っていた物静かな武士も、快活に笑う感情豊かな武士も、力強い剣技を放つ。
燦々と降り注ぐ太陽のような技名を、どちらも持っていたように思う。
「それってやっぱり。杏寿郎のご先祖様だよきっと」
「……」
「炎の呼吸の使い手。それと同じ羽織を着ていたなら絶対そうだよっ」
「……父が、言っていた。煉獄家は代々炎の呼吸を継承してきた一族だと。遥か昔から鬼殺隊に属し、鬼を狩ってきた者だと」
興奮気味に告げる蛍に、杏寿郎もどこか唖然とした表情を見せながらも静かに頷いた。
「戦国時代って。歴史はよく知らないけど、きっと何百年も前の時代ですよね?」
「うむ。儂らは人間に比べれば長生きする生き物じゃが、儂らの感覚からしても戦国と大正を繋ぐ軌跡は長い時間じゃ」
「そっかぁ…凄いなぁ」
目玉親父の語りに、蛍の瞳がきらきらと輝いていく。
「それだけ長い間、一度も途切れることなく煉獄家が続いてきたってことだよね」
容姿や呼吸だけではない。
鬼殺の姿勢もまた、長い歴史の中で脈々と受け継がれてきたものだ。
「それだけ煉獄の人達は、鬼殺隊に必要不可欠だったってことだよね」
嬉しそうに告げる蛍の言葉に、はっとしたように杏寿郎の表情が止まった。
その目に映るは、擬態化させた黒目を弾ませる蛍。
闇のように深い色合いのはずなのに、奥底できらきらと何かが弾けて飛んでいる。
感情という名の煌めきが。