第31章 煉獄とゐふ者
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「──…ぃ…っ……ょ……縁壱!!」
「……」
「おい、呼んでいるだろう縁壱(よりいち)! 聞こえているかっ?」
「聞こえている。なんだ煉獄」
「なんだ、じゃないだろう。全く…俺の声も聞かずに急に飛び出して行くな。気が気じゃない」
「…鬼の頸は斬った。誰も命は落としていない」
「それは見ればわかる。だが問題はそこじゃない」
「?」
「わからないって顔するな。お前が問題なんだぞ」
静かに刀を鞘へと収める。
付いた血を拭わずにいたのは、いずれ水分のように蒸発して消えることを知っていたからだ。
同じに腰に刀を下げた男が大股で近付いてくる。
鮮やかな金と朱の混じる焔色の長い髪。
後頭部の高い位置で結び上げている男は着物の上からでもわかる鍛え抜かれた体格をしていた。
太い二割れの眉をつり上げて怒る様に、反してぴくりとも感情を宿さない無表情な男は頸を傾げた。
赤みの混じる黒髪を同じに後頭部で結んだ男は涼しげな顔立ちをしていたが、荒波のような大きな痣を顔に刻んでいる。
この場にいた悪鬼と呼ばれる存在は全て滅した。
襲われていた一般市民の命も救えた。
問題などないだろう。
そう目で問うも、煉獄という男は別に問題があると言うのだ。
「なんの為に二人で行動しているんだ。単独だと命を落とす危険も大きくなるから、今後は複数で組んで鬼殺を行っていくべきだと皆で決めただろう」
「? だから煉獄と共にいる」
「~っそうじゃなくて…」
任務を組まされた相手は知っている。
だから共に行動しているだろうと煉獄を指差せば、盛大な溜息と共に額に手を当てて項垂られてしまった。
「いいかっ? 共に戦うということは背を預けて戦うという意味だ! なのにお前は鬼を見つけた途端に好き勝手突っ走って、俺が刀を抜く頃にはけろりとした顔で事を終えているだろう!」
「…その方が早いから…」
「何が早いんだ? 鬼殺がか?」
「そ──」
そうだ、と告げようとした答えは皆まで形にならず。
がつりと乱暴に煉獄の手が胸倉を掴み揺らした。
「見縊るなよ。俺が共にいたら四半刻は早く事を終えていた」
見開いたような眼球に映えるは炎のような金輪の双眸。
しかし今はぎらぎらと強い光を放ち、縁壱を圧倒している。