第8章 むすんで ひらいて✔
「お前は鬼舞辻のことを何も知らない。あの鬼は同じ鬼だからと言って慈悲をくれるような存在じゃない」
「会ってないのにわかるの?」
「その分、あれに鬼にされてきた者はごまんと見てきた。全ての鬼が鬼舞辻の呪いに縛り付けられ、その存在に畏怖して生きていた。そんな男が、鬼であるだけで情けをかけると思うか? 血があればいくらでも生み出せる一端に」
饒舌になる義勇さんに圧される。
反論なんてできなかった。
見てはいないけど、でも私より無惨の力を知っているのは義勇さん達だ。
「見つけ出せても、鬼殺隊に囚われた鬼だとわかれば切り捨てられるだけだ。止めろ」
「……でも…」
それじゃあ何も進めない。
何もわからない。
自分の体のことなのに。
このまま燻り続けていいの?
「いいじゃありませんか」
二人しかいないはずの暗い檻で、高い声が響く。
同時に顔を上げた私と義勇さんの目は、檻の外へと向いていた。
「彼女が本気で望むなら」
ふわりと舞うような足取りで、暗闇の中から小柄な姿が現れる。
──あ。
「冨岡さんにとっては他人事でも、彼女にとっては死活問題ですよ。冨岡さんこそ簡単に切り捨ててあげないで下さい」
「…お前の方こそ無責任なことを言うな」
「あらあら。発言の自由くらいあるでしょう?」
口元には常に優しい笑み。
だけどその瞳の奥は深い底が見えている。
胡蝶しのぶ。
そうだ、今日は──朔月だ。
「彩千代蛍さん。貴女が望むなら、私が会わせてあげましょうか?」
「ぇ…」
「鬼舞辻無惨に、とはいきませんが。任務で鬼と出くわすことはよくあることですから」
胡蝶しのぶが傍にいると緊張が走るけど、それ以上に提案された内容は私には魅力的だった。
会えるなら会わせて貰いたい。
思わず腰が浮く。
「駄目だ」
「っ」
ぐっと強い手に腕を掴まれた。
見れば、義勇さんの鋭い眼孔が胡蝶しのぶを見据えていた。