第31章 煉獄とゐふ者
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「陽光が…命取り?」
「なんと、そのようなことが」
「うむ。故に昼間蛍はこの装いが常時なんだ」
「ごめんね。見苦しくって」
「いえ、そんなことはないですが…」
蛍が鬼である証。
その一つである陽光が命取りであることを説明すれば、鬼太郎はほっと静かに肩の力を抜いた。
蛍が駅から姿を現さなかったのは、重症だったからではない。
そもそも陽の下に出られなかっただけなのだと。
「よかった」
「よかった?」
「! ぃ、いえ…なんでもないです」
頭に笠を被った蛍が頸を傾げれば、ふるふると鬼太郎の頸が慌てて横に振るわれる。
鬼太郎と目玉親父は、切り裂き魔の後処理が終わるのを見計らって杏寿郎に声をかけた。
隊士達を退かせた杏寿郎が蛍の移動の為にいつもの一張羅を渡したのも丁度その頃。
トミとふくにも別れを告げて一息ついたのは、とある茶屋。
店の外に設置された縁台に共に座り、出された抹茶を味わう。
その場を選んだのは偶然だが、足を運んだのは杏寿郎の強い希望により。
一目確認したいと杏寿郎が告げたのは、あの蕎麦屋だった。
朝の仕込みを行う店主を遠目から見て、静かに背を向けた杏寿郎は緩やかな笑みを浮かべていた。
「鬼太郎くん達には陽光は特に問題ないみたいだね。羨ましいなぁ」
「…他には」
「ん?」
「他にも、駄目なものとかあるんですか?」
「そうだなぁ。藤の花とか」
「藤の花」
「うん。他の花は大丈夫なんだけど、藤だけは鬼の体質には合わないらしくて。触っただけで、こう…溶けるというか」
「そう、なんですか」
「あっそんな重く取らなくていいからね? 触らなければ大丈夫だから」
「他には?」
「他? うーん…」
「怪我は、特に問題なかったんですか」
「怪我? あ、うん。もう治ったから平気。治りも人より早いから」
「そうじゃなくて」
「?」
「……」
「鬼太郎くん?」
歯切れ悪そうにしながらも問いかけていく鬼太郎を、目玉親父は膝の上から興味深く見上げていた。
あの鬼太郎がここまで妖怪以外の存在に興味を持ったのは初めてのことだ。