第31章 煉獄とゐふ者
「その証拠に…あの、巽さん」
「ぁ…ああ。彩千代は確かに女だよ。変装している時は、まぁ…俺も目を疑うけど」
手助けを、とばかりにそろりと挙手する蛍に、巽ははっと我に返ると苦笑混じりに頷いた。
自分もついふくと同じに驚き凝視してしまっていた。
一瞬で性別を変えるなどという芸当は腕利きの芸者でもできないことだろう。
という本心は胸にしまって。
「彩千代…蛍、さん…」
「はい」
「本当に、女の人…なんですね…?」
「すみません」
しょんぼりと肩を落とすふくは明らかに落胆の姿を見せている。
どうしても申し訳なさが先立ってしまうが、あらぬ誤解を植え付けたまま好意を持たれるより良い。
場の空気を変えるように、蛍は覗き込むように前屈みに背を倒すと明るい声をかけた。
「ふくさん。触れても、いいですか?」
「え?」
異性ならまだしも、女同士でそんな配慮の仕方は聞いたことがない。
つい顔を上げたふくは、近い距離にある蛍の顔に驚きながらも頷いていた。
「ありがとうございます」
そんなふくの反応に、ほっとしたように安堵の笑みを見せる。
蛍のその手が、ふくの手に重ねるように触れた。
「確かに性別は偽っていましたが、その間ふくさんにかけた言葉は全部私の本心です。気持ちまで偽っていた気はありません」
触れているようで触れていない。
肌の上を擦れ擦れでとどめたその体温は、男の姿をしていた蛍が見せた行為と同じものだ。
「やっぱり夜遅く女性二人だけでは不安なことが多いです。ふくさんがお祖母さんやご両親をとても大切に思っていることはよくわかりました。…なら自分のことも大切にしてあげて下さい」
そこで留まっていた体温が、そっと寄り添うようにふくの手を包む。
それは男の蛍にはなかった行為だ。
「ふくさんと同じに、お祖母さん達もふくさんのことが大切なんです。夜間の仕事を急に変えられないにしても、もう少しだけ早めに仕事を上がるとか…きっと考えれば方法はありますから」