第31章 煉獄とゐふ者
「先程外を見てみたが、吸血木の姿もなくなっていたな。元の人々に戻れたのか?」
「はい。そこはあの男の仲間という者達が手際よく進めてくれました」
「鬼太郎くん?」
「いや。後から合流してきた老人と老婆と、おかっぱ頭の少女だな。皆珍妙な恰好をしていたから同じ類の者達だったんだろう」
「老人と老婆とおかっぱ少女…」
一体どんな風貌をしていたのだろうか。
振り返れば鼠男や鬼太郎も、一般人とは異なる奇妙な出で立ちをしていたように思う。
興味を持つ蛍の反応に反して、巽は払うように片手を振って顔を顰めた。
「悪鬼退治だけでも大変だってのに、妖怪なんて。俺はもう懲り懲りだけどな」
「…妖怪?」
ぽつりと呟く声は、蛍の傍らにいたふくからだ。
はっとして慌てて口を噤むと、巽は思い返したように杏寿郎に向き直った。
「そ、それで無限列車はっ!?」
「む? うむ! 今夜中に整備を整え、明日からは運行再開とのことだ!」
「それはよかった!!」
「妖怪って…」
「そう思えるくらい奇怪な鬼が出たって意味です。怖がらせてごめんなさい」
尚も頸を傾げるふくに、蛍が取り繕うように補足を付け足す。
つい先程まで目にした悪鬼の方が印象強かったのか、意外にもふくはすんなりと受け入れた。
「そ、そんな鬼がいるんですか…?」
「大丈夫。もうこの町にはいないから」
町から行方不明者を次々に出していた悪鬼は、杏寿郎の手により滅することができた。
ふるりと体を震わすふくに、蛍がそっとその小さな肩に触れる手前で掌を寄り添える。
「それでも夜中に仕事をするのは、女性としても危ないですから。せめて町が落ち着くまでは、明朝にお弁当を運ぶようにしたらどうですか?」
「え?」
「お嬢さんも、お婆さんも」
少しでも陽光の気配があれば鬼は余計な手出しをしようとしないだろう。
ふく達にとって仕事は生きる為に必要なものだ。
しかしその命をそもそも落としてしまっては意味がない。
せめて少しでも安全な道を歩んでくれるようにと、蛍はやんわりとふくに問いかけた。
「無理にとは言いません。よければ考えてみて下さい」