第31章 煉獄とゐふ者
「お、おい! あんた…」
「俺は切り裂き魔を追う」
「それより、あの坊主はっ? あの子だって見当たらないじゃねぇか…!」
呼び止める親方に外へと向かっていた杏寿郎は、蛍を案じる言葉に足を止めた。
「心配ない。あの子は大丈夫だ」
手短にでもしかと伝えた口元は僅かに柔い弧を描いている。
緊張感の残るその場の空気とは異なる杏寿郎の表情に、親方が息を吞む。
その一瞬の間に、再び踵を返した背中は外へと消えていた。
工場を後にし、暗い線路の道へと足を着く。
深い深呼吸で息を整えると、ゆっくりと杏寿郎は走り出した。
枕木が並ぶ凹凸のある線路の上を均一に、ただ真っ直ぐに走り抜けていく。
(──"全集中の呼吸")
刀に手を添え、前を見据えたまま、ただ無心に駆ける。
蛍への思いも、悪鬼への使命も、一般人への危惧も全ては腹の底に沈めて。
整えた呼吸を肺に巡らせ心拍数を上げれば、連動するように体が熱くなる。
徐々に速度を上げていく様は、まるで線路の上を走り出す蒸気機関車のようだった。
ゆっくりとだが、やがては目で追いつけない程の速さへと。
ゴウッ!
最後には炎の渦のような風圧の波を上げて、杏寿郎は線路を駆け抜けた。
目指すはふくや鬼太郎達と出会った、あの駅だ。