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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第31章 煉獄とゐふ者



 小さな体が反動で足から上に反り返る。
 どうにかしがみ付いた両手は悪鬼の服を掴んでいたが、反り返り仰向けの状態に飛んだ蛍の目が悪鬼のそれと重なる。

 無防備に空中で体を晒す体制は、瞬時には変えられない。
 そこに目を付けた悪鬼が牙を剥いたのだ。


「じゃあなァ!!」


 鋭い爪を持つ手が、避けられない蛍の顔目掛けて振り下ろされた。


 ザシュッ!


 肉を引き裂く音と共に、ぱっと夜空に散ったのは真っ赤な鮮血。






























 胸部に布を巻いていた手が止まる。
 は、と顔を上げて振り返った杏寿郎は、じっと誰もいない工場の出入口を睨んだ。


「頼む…っ助けてくれ…!」


 傍で震える声が杏寿郎を急かす。
 現状を思い直すと、再び杏寿郎は目の前の横たわる少年を見下ろした。
 傍らについているのは、青褪めた顔をした親方。
 周りには心配そうに少年を見つめる仕事仲間の男達もいた。


「大丈夫だ。俺に任せろ」


 胸部の出血を押さえるように上から重ねたタオルを何枚も当て、固定するように大きめの布で巻き付ける。

 悪鬼が蛍と共に姿を消した後、杏寿郎は身を切る思いで踏み止まった。
 蛍の安否が心配だが、手傷を負い意識も朦朧としている少年を放ってはおけない。
 そして何より状況を理解できずに狼狽えるばかりの一般市民が残されているのだ。


「それに俺の仲間もすぐに駆け付ける」


 その言葉を皮切りに、黒い隊服に帯刀をした男女が数名駆け付けた。
 先頭を切っているのは鎹鴉の要。
 杏寿郎の指示が無くとも長年柱の鴉として就いている要は、少年が盾として悪鬼に囚われているのを確認したと同時に飛び立っていたのだ。


「カァ! コッチダ!!」

「煉獄様!」

「医療班は?」

「向かっています」

「応急処置は済ませた。後は頼む」

「はっ」


 ぎゅっと強く布を巻き付け結び目を作る。
 一人の女性隊士に端的に告げると、杏寿郎は素早く身を翻した。

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