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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第31章 煉獄とゐふ者



 妖怪のことなど何も知らない。
 その悪鬼が追われている自覚も無く、大勢の人間がいる場を襲った。

 切羽詰まった行動ではない。
 そもそもが少年を傷付ける様も楽しんでいる。

 ゆっくりと徐々にだが、霞ががかっていたような悪鬼の性質が見えてきた。


「じゃあ…ここへきたりゆうは?」

「あ?」

「むげんれっしゃにしみついていたいやなけはいは、あんたのものじゃない。それにひかれてやってきたの?」

「何言ってやがる。俺はこう見えて縄張りは守る方だぜ」


 悪鬼の返しにはっとする。
 思い出したのは、とある初詣で出会った鬼に告げられた言葉だ。





『新米なら覚えてろ。鬼はそれぞれに餌場や縄張りがある。弱ぇ奴がフラフラ邪魔立てしたら、殺されるぞぉ』





 蛍を世間知らずの鬼と見て、助言を告げてきた。
 暗い目を持つ妓夫太郎という鬼だった。

 鬼にはそれぞれに餌場や縄張りがある。
 この悪鬼も縄張り内で狩りをしていたのだとしたら。


「じゃあ…なんで、こんなにひとのおおいばしょを…」

「ハァ? 意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。此処は俺の餌場だ。好きに狩って何が悪い」

「こんなにおおぜいのひとのめにふれたら、じぶんのそんざいだって」

「蛍。それ以上の問いかけは不要だ」


 今まで足取りを掴ませなかった悪鬼が、何故沢山の人の目に晒すような行動をしたのか。
 不思議でならなかった蛍に対し、杏寿郎は既に答えを見つけ出していた。
 感情の見えない視線を悪鬼に向けたまま、静かに蛍を制す。


「この鬼は人間を餌、もしくは己の欲求を満たす玩具(がんぐ)としか見ていない。それらに幾ら正体を掴まさせたとて、何も問題に思わないだろう」

「そこのチビ鬼より、鬼狩りの方がよくわかってるじゃねぇか」


 鋭い牙を見せてハッと笑う悪鬼の濁った眼が、力尽きたように尻餅を着く親方を見つける。


「見つかったところで、全員口を割らねぇようにすればいいだけだろ?」


 口を開けない程に痛めつけるか、はたまた死か。
 それらを予見させる物言いに、ぞわりと蛍の肌が逆立った。

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