第8章 むすんで ひらいて✔
安易に話せないことだけど、相手は義勇さんで、此処には彼しかいない。
座った膝の上で指先を握り合わせて、視線をそこへ落とした。
「死にかけてた、から」
相槌も返事もなかった。
少しの沈黙の後、ようやくぽつんと一つだけ問われたことを除いて。
「鬼舞辻無惨にやられたのか」
頸を横に振る。
私を殺そうとしたのは私と同じ人だった。
そのことを誰かに話したことは一度もない。
何故同じ人間に殺されそうになったのか。
そのことを話せば、自然と自分の人生も話さなければならないかもしれない。
それは…まだ、あんまり話したく、ない。
「自分はこんなに惨めだったんです」なんて言いたくないから。
生きる為に仕方なくしてきたことだから悪いことだとは思ってない。
ただ、誇るべきことだとも思ってないだけで。
そうやって自分の人生一つ認められない私も、"覚悟"が足りてないのかな…。
「…思い出したくないことを思い出させたのなら謝る」
ぽつりと降ってきた思いも掛けない謝罪に、慌てて顔を上げる。
そんなことないと咄嗟に頸を横に振った。
「大丈夫、そんなことないから…っ」
寧ろ、
「憶えておかないと、いけないことだから」
お館様が言っていた、鬼が記憶を抹消する意味。
それは鬼となった自分自身がよくわかる。
大切な人の血肉を喰らうなんて、そんな死ぬより恐ろしい記憶。抱えて生き続けるなんて簡単にはできない。
下手すれば狂ってしまうかもしれない。
私だってずっと死ぬのに躊躇していなかった。
それでも今、此処で、前を向こうとしていられるのは…きっと。
「だから…ありがとう」
義勇さん達の、お陰だ。
「なんで礼を言う」
「言いたくなった、だけだから」
「……」
「変な鬼だって、思う?」
義勇さんは無口だけど、その分表情が割と豊かだ。
怪訝な顔はそう問い掛けてるのがわかる。
散々周りに言われたから、自分が他の鬼と何かが違うことも理解した。
ただ。
「私、他の鬼と何が違うのかな…それがよくわからなくて。…知りたいなって」
一度も会ったことがない、自分と同じ運命を辿った生き物に。
「鬼に、会ってみたい」