第8章 むすんで ひらいて✔
「…はぁ」
「なんで溜息をつく。つまらないか」
「あ、いえっ! そうじゃなくて…っちょっと肩の力が抜けたというか…ほっとしたというか…」
「なんで安堵する必要がある」
「ちょっと、ね…落ち着いて話ができるのが嬉しくて」
疑問符を頭にいっぱい浮かべてます。
という顔をした義勇さんを前に思わず苦笑いをしてしまう。
此処は見慣れた藤の檻。
薄暗く狭い空間だけど、今までで一番ほっとしている。
言わずもがな理由は目の前の義勇さん。
杏寿郎や天元や伊黒小芭内みたいに、すぐさま拳だ刀だ打ち込んでこないからだ。
「先、続けて下さい」
「…先に言った通り方法は一つだけだ。鬼舞辻無惨の血を意図的に与えられる、もしくは傷口にその血を浴びる。それによって人喰い鬼は増えていく」
先を促せば、再び静かに淡々と義勇さんは語り始めた。
鬼殺隊のことも知り得ないといけないけど、それ以上に私が知らなければならないこと。
それは自分ともっとも深い関係にある〝鬼〟のことだった。
誰に教わるか、白羽の矢はすぐ立った。
義勇さんなら情や私の立場に流されることなく、鬼のことを教えてくれると思ったから。
そうして頼み込めばすんなりと承諾してくれて今に至る。
私の読みは当たっていた。
"人喰い鬼"という単語に思わず反応してしまったけど、とにかく情報を取り入れないと、と耳を傾け続ける。
「己の記憶を遡ってみろ。お前なら憶えているだろう」
「…朧気に、なら。無惨の顔なんてはっきり見ていないし…声しか聞こえなかったけど」
男達に殴られ大きく腫れた私の顔は視覚を遮られていた。
傍に無惨の気配は感じ取れていたけど、朧気に届く声しか憶えていない。
無惨の容姿や能力などの情報は、鬼殺隊の中には何もない。
今現在隊士を務めている誰も会ったことがないんだとか。
あのお館様でさえも。
「鬼舞辻無惨とは何か話したのか」
静かに頸を横に振る。
あの時は口内に自分の血が溜まっていて、歯は折れ舌の感覚もなく、まともに喋ることもできなかった。
「無惨と出会った時、私は…まともじゃ、なかったから」
「まともじゃないとは?」
まさか突っ込まれるなんて思っていなかったから思わず言葉が詰まる。