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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第31章 煉獄とゐふ者



 その言い様は、蛍を鬼と認識している。

 一目見ただけで蛍を鬼と見抜いた。
 それだけの技量がある悪鬼なのは確かだった。


「いたいからいっしょにいる。それだけ」

「ハァ? 何トチ狂ったこと言ってんだ。仲良く人間の食いモンでも食らうってか? テメェの餌は目の前にいるってのに」

「にんげんはえさじゃない」

「じゃあなんだ。この臭い弁当でも食べるってか」


 鬼狩りと共に生きている鬼。
 それは悪鬼達にとって珍しく、また癪に障る存在らしい。
 今まで蛍が出会ったどの悪鬼も、蛍の存在意義を問いかけて罵倒してきた。
 嘗ては同じ生き方をしていたというのに、それを忘れて真向から生き方を否定してくる。

 そんな言葉は慣れたものだと、蛍は冷たく悪鬼を睨み返した。


「くさいとかんじるのはそっちだけでしょ」


 周りには何も知らない男達がいたが、悪鬼を見られた今、自分達の正体もいずれ明かさなければならない。
 今更取り繕うこともないと、淡々と本音を投げつけた。


「たべられなくても、わたしにはおいしくかんじられる。そのにおいだけでも」

「……ハ?」


 蛍の言葉に、悪鬼の顔が信じられないものを見る目に変わった。


「ふざけてんのか? 鼻がひん曲がるほど臭い汚物じゃねぇか」

「ぎゅうにくをおいしくにつめたにおいしかしない」


 甘しょっぱく煮た玉ねぎと、卵と、そして牛肉。
 艶々のご飯の上にふんだんに盛り入れられた上等な弁当だ。

 味わえば体が拒否して嘔吐してしまうが、匂いだけは人と同じに楽しむことができた。
 だから杏寿郎達と共に囲む食事は好きな時間だった。
 味わえなくとも匂いや周りの人達の笑顔で楽しむことができたのだから。


「…本気で言ってんのか」


 それが悪鬼達と自分は違うところだということは薄々感じていた。


「お前、鬼じゃねぇなあ」


 もし鬼全般がそうなのだとしたら。
 自分が異端だということも。


「気色悪い」


 吐き捨てるように告げる悪鬼に、蛍の眉間に皺が刻む。
 険しい表情で押し黙る蛍の前に一歩、杏寿郎が踏み出した。

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