第31章 煉獄とゐふ者
「作動することはねぇが、整備中だしな。手動装置には触るなよ?」
「しゅどうそうちとかあるんですか…」
「なんだ、中までは詳しく知らねぇのか」
「は、はいっすみません」
「謝る必要ねぇさ。鉄道は外観が格好いいもんなァ」
「ほら坊主、乗せてやるからこっち来な」
手を差し出す男に、大人しく身を預けようとする。
蛍のその手がぴくりと止まった。
は、と杏寿郎の顔から笑みが消え、顔を上げた直後。
「うわぁああぁああ!?!!!」
倉庫の奥底から悲鳴が響いた。
「なッ…!?」
「なんだ!?」
男達が慌てふためくより早く、駆け出した杏寿郎が一直線に向かったのは倉庫の奥にある詰所。
「鬼ダッ! 鬼ガイルゾ!!」
倉庫の屋根の剥き出しの鉄骨に停まっていた要が、羽搏き一つ立てて声を上げる。
「あっ! 坊主!?」
男達が一瞬要に気を取られた間に、蛍も杏寿郎の後を追った。
小さな手足にぶかぶかのツナギ服では覚束ないが、それでも素足で地を蹴り駆ける。
「ひぃ…!」
作業員達が休憩や寝泊まりの為に使う詰所。
その入口で腰を抜かしたように、一人の男が座り込んでいた。
おぞましいものでも見たように顔は青褪め、薄暗い詰所の中を凝視している。
男の後ろに駆け付けた杏寿郎が、足を止めて刀の柄に手をかけたまま構えの姿勢を取る。
電灯の消えた暗い詰所の中。
其処で蠢く人影があった。
チャキリと親指で鍔を押し上げ僅かに抜刀する。
その音を、詰所の人影は聞き逃さなかった。
向けていた背を捩り、振り返る。
青白い肌をした男。
「──おっと」
それは人間ではなかった。
血の気を引いたなどとは言えない程の青黒い肌を持ち、そこには入れ墨のような横縞模様が入っている。
髪の毛のない頭にも、目元にも、腕にも。
本来なら白い眼球の結膜は墨を零したように真っ黒に染まり、射貫くような鋭い金色の角膜の中心は縦に割れている。
紛うことなき鬼の眼だ。