第31章 煉獄とゐふ者
ぺこぺこと頭を下げながら蛍が杏寿郎の下まで駆け寄れば、親方がその小さな頭にぽんと軽く触れる。
「っ?」
「待ってな、チビ助。子供用の服はねぇが、寝泊まり用の着替えなら置いてある。それ着させてやる」
「え…で、でも」
「いいのか!?」
「きょうじゅろうっ…さん!」
「そんな薄着の坊主見てるとこっちまで寒くならァ。気にすんな」
「タダ飯食わせて貰ったしな」と笑われれば、蛍もそれ以上は何も返せない。
結局、男物の服を一着貰う羽目となった。
「うーん。やっぱぶかぶかだなァ」
「でもさっきの羽織一枚よりは良くないっスか? 親方」
「ほら坊や。手こっちに寄越しな」
「は、はい」
借りたのは作業用のツナギ服。
袖や裾を何回も折り曲げてどうにか蛍が動けるように着せれば、手足は巻いた厚みでこんもりと膨れ、その中から小さな指や足が見えている。
流石に子供用の靴はなく素足のままだったが、折り込んだ裾に踵を踏ませれば多少の痛みも軽減できた。
「何から何まですまない。服の代金は払おう!」
「いいって言ってんだろ? これだけの弁当代の方が高くつく。それにその子のお陰でオレ達の士気も上がったしな」
「あの…ありがとうございます」
「いいってことよ」
「それよか無限列車に興味あるんだろ? どうせなら近くで見ていくか?」
「えっいいんですかっ?」
「中の整備は大方終わってるしな」
「機関室でも見るか?」
「ぜひ…!」
蛍にとっては無限列車をつぶさに観察できるまたとない好機だ。
それが男達には列車に熱中している子供に見えるのだろう。
こくこくと何度も頷く蛍を見守る誰もが微笑ましい顔をしている。
親方の「士気が上がる」とはこのことかと、杏寿郎もその微笑ましい光景には口を挟まず見守った。