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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第31章 煉獄とゐふ者



「あれものっぴきならない理由だ!」

「ハァ…今は十一月だぞ。あんな恰好させてりゃ風邪引くってもんだ」

「わ…お、おれがわるいんですっどうしてもむげんれっしゃがみたいっていったから」


 どうやら薄着であることも親方には見破られてしまったようだ。

 杏寿郎の言う通り、それはのっぴきならない理由である。
 寧ろ着る物のない状態で、自らの羽織を差し出してくれたのだ。
 杏寿郎が責められるのだけは見過ごせないと、蛍は慌てて声を上げた。

 この際なら、とことん鉄道の大好きな少年になってやろう。


「おれ、てつどうがすきで。だからついていくってきかなくて…っ」

「蛍」

「あの、だから、きょうじゅろうさんは、なにもわるくないです。ごめんなさいっついさわってみたくなって…!」


 抱きかかえられたままがばりと頭を下げる。
 幼い少年が、鉄道が好きだからと誠意を込めて謝罪する。
 鉄道に関わるからこそ、男達もそれ以上その姿に責める気にはなれなかった。


「まぁ、わかればいいんだよ。気を付けな、坊や」

「はい」

「しっかしなんだってそんな寒い恰好してんだ?」

「え…え、と…ねおきに、ついてくってせがんだから…」

「こんな羽織を寝間着にしてんのか? 妙な小僧だな」

「いえ…あの…はい…このはおりが、すきで…」

「ふぅん? まぁよく見りゃ様になる染め模様だもんなぁ」


 ようやく地面に下ろされてほっとするものの、わらわらと集まる屈強な男達に囲まれて忽ちに蛍の姿は埋もれてしまった。
 杏寿郎の視界からも見えなくなり、ぽそぽそと照れた様子で伝わってくる声には胸の内がこそばゆくなるが心配も募る。


「蛍、こちらに──」


 そんなことはないだろうが、男達に小さな体が潰されやしないか。
 声をかけて割り込もうとした杏寿郎の肩を、ぽんと叩いたのは親方の手。


「まぁ待ちな。おいお前ら! そんなに寄って集って構い倒したら坊主が怖がるだろ!」

「へぇ、すんません!」

「うっす!」


 親方が声を上げれば、忽ちに筋肉の道が開けて小さな少年の姿が現れる。正に鶴の一声だ。

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