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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第31章 煉獄とゐふ者


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「成程、此処か」

「…あの、きょうじゅろう」

「ん?」

「もうおろしていいよ。おべんとうももってるからはこぶのたいへんでしょ」

「いや。蛍はそのままでいてくれ」

「でも」

「また人に会えば素足のことを突っ込まれるやもしれないからな」

「……」


 警備員に教えて貰った整備工場へと向かったのは、杏寿郎の足並みのみ。
 両手に弁当の入った大きな包みの結び目を握り、曲げた左腕には蛍を抱き抱えている。
 それでも汗一つ掻かず爽やかな笑顔で杏寿郎はさくさくと先を進んだ。

 確かにこんな夜更けに起きている子供の姿は目立つ。
 なるべく人の目に晒さないようにと素足を羽織の下に隠すように縮めたまま、蛍は肯定の沈黙を通した。


「それより、ようやくお目見えだな」


 辿り着いた整備工場は、機関庫と違い出入口は解放されていた。
 明かりのついた煉瓦の大きな建物内には、黒光りする蒸気機関車の先頭車が置かれている。

 そのまま出発できるように線路は建物内にまで繋がっている。
 その線路を辿るように歩けば、列車の先頭車に辿り着いた。

 重厚感のある重々しい黒い鉄の体。
 先頭の丸い煙室扉の上には、金のプレートで【無限】という言葉が綴られていた。
 それこそが〝無限列車〟と呼ばれる由縁だろう。


「これがむげんれっしゃ…」


 蒸気機関車なら、花街へと寄る際に使用して間近に見ることができた。
 しかしあの時のような感動は蛍の中にはない。
 それよりもそわりと肌の上に薄らと感じる寒気のようなものは、のびあがりと対峙した時の感覚に似ていた。


「成程…微かだが鬼がいた気配が残っている」


 それは杏寿郎も同じだった。
 長年錬磨された五感が語り掛けてくるのは、それが悪鬼の気配によるものだということ。

 やはり無限列車は鬼と関与していた。
 そう確信付いた杏寿郎の肌は、異なる気配も拾い上げた。


「おーい、あんた! 此処は立ち入り禁止だぜ」


 建物の奥から姿を現したのは貫禄のある男だった。
 煤汚れた分厚い手袋を脱ぎながら歩いてくる様は、今し方まで列車の設備を施していた様子だ。

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