第31章 煉獄とゐふ者
「こら! 其処で何してる!!」
「ひゃあッ!?」
「蛍ッ!!」
急に増す明かりに、罵声が飛ぶ。
びくりと小動物のように体を跳ねさせた蛍は、途端に弾け消えた朔ノ夜から落下した。
両手を差し出して待ち構えていた杏寿郎がいたものだから、なんなく小さな体は腕の中へと納まる形となった。
「あ、ありがと…」
「怪我はないか?」
「うん」
「お…おいッお前達此処で何してるんだッ」
そこへ再び飛んでくる声は、先程よりも委縮していた。
幼い見た目の少年に、ばつの悪さでも感じたのだろうか。
二人が目を向けた先には、小さな手持ち行灯を掲げた男が立っていた。
隊服とは異なる黒い制服に身を包み、頭には黒いつばの軍帽。
夜の見回りをしている様から夜間警備の者だとわかる。
「やあ、夜分遅くにご苦労様! 俺は見ての通りの弁当売りだ!」
「べ…弁当売り…?」
抱き上げていた蛍を下ろすと、杏寿郎は笑顔で置いてある包みを緩めて弁当の表紙を見せた。
何十人分もの弁当があれば流石に警備員も納得せざる終えなかったのか、物珍しげに杏寿郎と蛍を再度行灯で照らした。
「弁当売りがなんだってこんな所に…」
「仕事を終えた帰りに、無限列車でも観て行こうと。鉄道が好きなんだ! この子が!」
「うぇっ? は、はい!」
急に話を振られて驚くも、杏寿郎に合わせるように慌てて蛍は頷いた。
大の男一人ならば不審に思われても、子供がいれば警戒心も薄まるはずだ。
「ひとめみたくて、ぎょうぎのわるいことをしてしまいました…ごめんなさい」
「あ、ああ…いや、いいんだ。だがあんな危ないことはもうしちゃダメだぞ、坊主」
「はい」
大人しく頭を下げて謝罪をすれば、警備員は優しい声で納得の姿勢を見せた。
「あんたも、この子の親御さんかい?」
「親ではないな。兄のようなものだと思ってくれればいい」
「そうかい。どっちにしろ、坊主が危ないことをしようとしていたなら止めてやらないと」
「返す言葉もないな。すまない!」
「わかればいいんだよ。それに此処に無限列車はもうないしな」
「え?」
「そうなのか?」
やはり蛍が見た通り、機関庫に無限列車は搬入されていないのか。