第31章 煉獄とゐふ者
「すまない二人共っ俺が見過ごせないと止めたんだ。悪かった!」
「そげんことならおいどんだって…! 歩きは大変たい、おいどんが運ぶけん…!」
そわそわと二人の周りを漂う一反木綿に、潔く地に下りた杏寿郎も慌てて隣に並ぶ。
先程までの負の感情はどこへやら。
素直な二人の姿勢に、ふと鬼太郎は表情を緩めた。
「その心配はないですよ。明かりが見えてますから、すぐそこに」
「む?…あれは」
「もしかして、むげんれっしゃの?」
「機関庫やなかと…!?」
「みたいじゃのう」
つい、と鬼太郎が指差した先。
明かりもない暗い線路の続く先に、ぽつんと小さな光が見える。
それこそが目指していた無限列車を搬入している倉庫のはずだ。
「歩けばすぐそこだな。…蛍」
「はいっ」
「駅で買った残りの弁当を全て出してくれ」
「え? おべんとうを?…まさかはらごしらえするの?」
「いや。まだ機関庫に明かりがついているのなら、人がいる可能性がある。恐らく無限列車の整備士か何かだろう」
「こんなよふけにしごとをしているの…?」
「夜更けに真面目に働く者達なら、つい数刻前にも見ただろう?」
杏寿郎の言葉を皆まで聞かずとも思い出せたのは、その弁当を売っていたトミとふくだ。
口を噤む蛍にうむと頷くと、杏寿郎は視線を上げて鬼太郎達を見渡した。
「目玉親父殿。鬼太郎少年。木綿の君も。大変世話になったな。此処からは俺と蛍の二人で行く」
「ええっ!? おいどんが機関庫まで運ぶ言うとに…!」
「ありがたいが、君では目立つ。のびあがりは君達の世界の者だったが、これから捜す悪鬼は俺達の世界の者だ。君達に被害が及ばない限りは手出し無用でいてもらいたい」
「ふぅむ…そうじゃのう」
「…わかりました。僕たちも貴方たちの世界を邪魔したいわけじゃないので」
「うむ! 理解して貰えてこちらも助かる」
妖怪と人間。
そこには目に見える線引きなどなくとも、本来ならば共に在る世界の住人ではない。
大人しく身を退く目玉親父と鬼太郎に、杏寿郎は感謝の意と共に頭を下げた。