第31章 煉獄とゐふ者
ばたばたと暴れる羽織に、隙間から覗く幼い四肢。
片手で羽織を掻き抱き、もう片手でしっかりと鬼太郎の背中を掴む。
上半身はどうにかそうして守れても、下半身までは気が回らない。
支える為に蛍を後ろから包むようにして抱く杏寿郎の視界に、幼い腿が垣間見えた。
(これは聊か目のやり場に…)
荒れる羽織の下は裸なのだ。
困るものだと己を釘刺す瞬間、ふと思い至った事実。
いくら少年の姿とて、そんな蛍にも初対面から全面的に好意を見せていた一反木綿。
更には少年でありながら身を包んで感じる体は、幼子ならではの柔らかさがある。
そんな蛍が何も身に着けず素股で跨いでいるのが、一反木綿の背中である。
「いくら急げと言ってもこれは…ッ」
「なんば言うとね鬼太郎さん! おいどん俄然やる気出とるとよ!!」
「いつになくやる気じゃのうお主…っ」
旧友である鬼太郎や目玉親父も目を見張る程の勢いを見せる一反木綿。
白い肌が仄かに赤く高揚しているように見えるのは気の所為か。
「ぃ、いったんもめんってこんなにはやくとべたんだ…っ」
「蛍ちゃんの為なら男、一反木綿! 木綿肌脱ぐってもんたいッ!!」
蛍の声掛けに、ぷしゅう!と蒸気のような熱を上げる。
さながら蒸気機関車の如く一反木綿は夜空を怒涛に駆け抜けた。
一目瞭然である。
一反木綿の燃料は石炭ではなく、幼い少年と化した蛍だ。
なんともわかり易いことか。
「よし。下りよう」
「えっ?」
「煉獄君っ?」
「何を言ってるんですか」
荒れ狂う強風の中、すんと真顔で言い切る杏寿郎に、一斉に一反木綿以外の顔が驚き振り返る。
「現在進行形で辱めを受けている気分だ。下りよう」
「え? はずか…え??」
「辱めとは…」
「俺ではなく蛍がな。下りよう」
「ま、待て待て煉獄君落ち着けっ(蛍ちゃんのこととなると本当に極端だのう!)」