第31章 煉獄とゐふ者
町を出た街灯のない草道。
暗い夜空の下を滑るように一反木綿が飛んでいく。
「むぅ! 薄い体にここまで力があろうとは…っ感服だな!!」
「そげん褒めても何も出んとよ~! 速度上げるけんしっかり掴まっときんしゃい!」
「一反木綿落ち着け…!」
「っこ奴は褒められて伸びるタチだからのぅ…!」
巽と鼠男と別れた鬼殺隊と妖怪一行。
目指すは無限列車のある機関庫である。
爛々と目を光らせて杏寿郎がこれでもかと褒める為に、調子に乗った一反木綿の速度は更に増していく。
速さはどうであれ剥き出しの木綿の上に乗っている状態なのだ。
びゅうびゅうと強く吹き付ける風は重く、いとも簡単に小柄な目玉親父の体を浮かせた。
「ひゃわあ!」
「父さん! 落ちないようにしっかり掴まっていてくださいッ」
「す、すまん鬼太郎」
髪の中から飛んでいきそうになる目玉親父を咄嗟に掌で受け止めると、鬼太郎は己の胸と掌の間で囲うようにして抱きしめた。
先頭に座っている鬼太郎は一番風の抵抗を受けやすい。
鬼太郎自身は平気だが、掌に抱いた父や背中に感じる温もりが心配だ。
「蛍も大事はないか?」
「ぅ、うん…なんとか…っ」
鬼太郎の背中にしがみ付くようにして乗っているのは幼い姿の蛍だった。
間で挟むように後方に乗る杏寿郎が、小さな肩を支えるように握る。
一反木綿の体はその名の通り、木綿のように柔らかい。
そんな不安定な乗り場でよくそこまで体幹を揺らさずにいられるものだと感心気味に蛍は振り返った。
「はおりのほうがふきとばされそうだけど…っ」
ばたばたと風にあおられ、荒れ狂う羽織をどうにか小さな手で己を抱きしめるようにして押さえつけている。
おかげですっかり井戸水で濡らした体の水分は乾いたが、別の意味で危機的状況だ。
「それはいけない! 俺が支えているから蛍はしかと羽織を握っておくようにっ」
「う、うんっ」
最後尾に杏寿郎が座っていなければ、自分も目玉親父のように軽く吹き飛ばされていたかもしれない。
その大きな手に包むように両肩を握られると、心持ちほっと安心できた。