第31章 煉獄とゐふ者
少し童顔気味の丸みを帯びた巽の瞳が、更に丸くなる。
まじまじと蛍を何度も見返しては、言葉にならない口を開けては噛み締めた。
満足に日輪刀を振るう機会もなく、挙句は吸血木となり炎柱の足手纏いになってしまった。
そんな自分は、少しでも抗えていたのだろうか。
少しでも何か形を残せていたのだろうか。
(まさか鬼に励まされる日がくるなんてな…)
母の大切な羽織を失ったと同時に堕ちていたそんな感情を、一摘み。拾われたような気がした。
「…少しだけわかった気がする」
「え?」
「炎柱が、お前を傍に置く理由」
時折蛍を見る目が、行動が、巽の知る炎柱でないことには薄々勘付いていた。
知らないフリをしていたのは、心の何処かで認めたくなかったからかもしれない。
鬼なんかに、あの柱ともあろう人が絆される様など。
「絆されるとは違うんだな」
「…ほだされる?」
「こっちの話だ」
共に吸血木に飲まれたからこそわかる。
同情などではないのだ。
共に寄り添い、体温を分かち合ったからこそわかる。
痛み分けでもない。
(同じ人間として見ているからだ)
蛍が、悪鬼に傷付けられた被害者女性を苦痛の表情で見ていたのも。
吸血木と成りゆく巽に手を伸ばし、決して離さなかったのも。
同じ人として、仲間として、見ていたからだ。
それと同じことを、炎柱もしていただけのこと。
「蛍、そろそろ行こう。夜が明ければ悪鬼の出現の可能性がより低くなる」
「はいっ」
静かに呼ぶ師の声に、巽へと頭を下げた蛍が踵を返す。
その小さな背中越しの燃えるような杏寿郎の双眸を、巽は正面から見上げた。
「炎柱、お気をつけて」
「うむ」
「彩千代のことも、よろしくお願いします」
仲間として。
頭を下げる巽に、杏寿郎の口角が深く上がる。
帯刀した腰の鞘に片手を添えて、胸を張り顎を退く。
いつもの炎の羽織はなくとも十分に貫禄のある柱としての佇まいを見せて、杏寿郎は頷いた。
「──ああ」