第30章 石に花咲く鬼と鬼
「男であろうと女であろうと裸は裸だ! 謹んでくれ!!」
「は…ハイ…ごめんなさい…」
「っいや、怒った訳では…」
「え、炎柱。彩千代は不可抗力です。俺だって裸だし…だからそんなに怒らないでやって下さい」
「だから怒っていないがっ?」
しゅんと身を縮める蛍に、ようやく杏寿郎の手が鷲掴んでいた一反木綿を離す。
責めたい訳ではないと告げようとすれば、庇うように前に出た巽にぴしりとまたもや空気は軋んだ。
怒ってはいない。
怒ってはいないが、良い気もしない。
だから裸同士でいつまでも同じ木の実の中などにいないで欲しい。
見えはしないがそもそも全裸なのだ。
いくら蛍の体が現在進行形で男であろうとも、異性となる者と全裸で傍にいるのは大層気に入らない。
「蛍も巽青年もいい加減そこから出てきたらどうだ。無事であったとしてもその実は吸血木から派生したもの。人体にどう影響を及ぼすかわからない」
「はぁ…出たいのは出たいんですが、なんせ俺達裸なもので…」
「くしっ」
「彩千代?」
「待て待て待て」
季節は秋から冬へと変わろうとしている。
全裸で夜の空気は当然体を冷やす。
小さなくしゃみを蛍が零せば、振り返ろうとした巽の肩を即座に杏寿郎が鷲掴んだ。
「わかった、すぐに着られるものを用意しよう! だから君達は待機命令! その姿勢のまま動かないように!」
「は、はい…っきし!」
「あ。巽さんも風邪引かな」
「動くな蛍!! 待機命令だ、指先一つ動かすことを禁ずる!!!」
「ぇぇぇ…っ」
互いに裸で木の実の中。大の男二人では狭い空間だ。
少しでも身を捩れば触れてしまうその距離に、杏寿郎は渾身の限りに声を張り上げた。