第30章 石に花咲く鬼と鬼
無駄のない引き締まった筋肉。
太陽を遠ざけてきた白い肌。
鋭い爪を持つ手に、傷跡のない四肢。
木の実から出てきた蛍は、生まれたてのように何も身に付けていなかった。
とろりと透明な樹液のようなもので髪や肌を濡らして、微弱な光に反射する。
そんな空気は微塵も纏っていないのに、何故だか艷やかな色を感じる。
つい目が釘付けてしまうのは仕方のない光景である。
「ほ、蛍ちゃん…! そげんあられもない恰好しとったと」
「どっせいッ!!」
「ふぎゃッ!!!」
艶やかな背中を見た一反木綿が鼻息を荒く、割れた実の下から這い出ようとする。
よりも早く、杏寿郎が笑顔のままに木綿の顔を片手で鷲掴み、その拳を力任せに地面に叩き付けた。
「今そこから出してやるから大人しくしていてくれ!!」
にっこりと笑っているが、びきびきと額に青筋を浮かべる様はなんとも末恐ろしい。
「え?…あっ!」
そんな二人のやり取りに状況を察した蛍が、ぼっと顔を赤くしてその場に蹲る。
己の体を抱きしめるようにして隠すのも束の間。
「…あれ」
きょとんと体を見下ろし、気付く。
守るように抱きしめた腕に、本来なら感じる柔らかな胸の感触がない。
杏寿郎に指示されていたその任を、未だに体は忠実に守り続けていたようだ。
筋肉質で時に無骨な身体は女性にはないもの。
男の姿のままだった。
下半身は流石に隠すべきだが、木の実の影でそこまでは皆の目に晒されていない。
晒してしまった上半身は、いつも以上にぺたんこの薄い胸。
ぺたぺたと柔らかくもない己の胸を何度も触りながら、蛍はほっと息をついた。
「なんだ…男のままだった。よかっ」
「よくないな!?!!」
苦笑いで呟く蛍を食い気味に遮ったのが、未だ笑顔で青筋を浮かべている杏寿郎だ。