第30章 石に花咲く鬼と鬼
「おおっ蛍ちゃん! 巽君! 無事じゃったか!」
歓喜の声を上げる目玉親父に、鬼太郎の表情にも安堵の笑みが浮かぶ。
見たところ外傷はない。
仲間の名を呼べているのなら頭もしっかり働いている証拠だ。
「ぁ…俺…?」
続けて俯いていた巽の頭ものろのろと上がる。
蛍と同じに樹脂のようなもので濡れた額を片手で押し上げながら、ぼんやりとその顔は辺りを伺った。
瞬間。
ばさりと蹲っていた二人の視界を覆ったのは炎の羽織。
たちどころにそれは蛍の姿を隠すと、雁字搦めに巻き付いた。
「うぷっ?」
「っ彩千代?」
「蛍! 巽青年! 俺の声はしかと聞こえているか!?」
「え、炎柱…っ?」
「うむ! 俺のことがわかるか巽青年!」
「は、はい。わかりますが…え、と…彩千代、が」
「蛍ならば大丈夫だ! 血の臭いもしないし五体満足なことは確認している!」
「いや…はい…俺もなんともないから、それはわかるんですが……苦しそう、ですよ」
「むぐぐ…っ」
「むっ」
途端に杏寿郎の手の力が弱まる。
ぷはりと息を吸い込みながら羽織から顔を出した蛍は、困惑気味に目の前の杏寿郎を見上げた。
暗い暗い闇の中にいた。
ようやく光が差し込んだ先で一番会いたかった人の姿を見たと思ったら、あれよあれよと見慣れた羽織でぐるぐる巻きにされたのだ。
「けほ…っ何、杏寿郎」
「む」
「私は、大丈夫。巽さんも無事でよかった」
「あ、ああ」
「他の吸血木は?…あっ鬼太郎くん! 目玉親父さんも」
「よかったのう無事で! 吸血木ならば心配することはない。皆徐々に人間の姿を取り戻しつつある」
「! 本当ですかっ」
「待て蛍っ」
目玉親父の言葉に蛍の目の色が変わる。
ぱっと笑顔を浮かべて立ち上がる蛍は、勢いもあるがそもそもが鬼である。
強い力に引かれて、尚且つ樹脂のような液体にぬるりと杏寿郎の制止の手が滑った。
それでも放すまいと本能的に羽織はしかと掴んだままだ。
結果、立ち上がる蛍の体からぬるりと落ちる羽織に、その身が木の実を囲む者の目に晒された。