• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第30章 石に花咲く鬼と鬼



 それは黒い花だった。

 墨で染めたかのような瑞々しい黒い花弁を広げて咲いている。
 夜の為にすぐには気付かなかったが、儚いその匂いを辿って見つけることができた。


「花、か…?」

「どうしたんじゃ煉獄君っ何か見つけたのかっ?」

「それは…」


 いち早くその変化に気付いた鬼太郎が、目玉親父を連れて枝を跳んで向かう。
 同じにその目に黒い花を見つけると、見慣れないそれに目を見張った。


「なんと、黒い花か?」

「父さん、吸血木に花が咲く現象とは」

「ううむ…聞いたことがないのう。儂自身、見るのも初めてじゃ」


 小さな体ながら、人型であった頃を合わせれば千年以上生きている目玉親父。
 その膨大な知識を詰めた記憶の中にも、過去吸血木が花を咲かせた現象は見たことがなかった。


「吸血木が複数の相手を寄生したことも初めてだったんでしょう? 何かしら関係しているのかもしれません」

「そうじゃのう。二人分の栄養を吸って吸血木が」

「蛍だ」

「む?」

「…煉獄さん?」


 片膝を着き、そっと花弁に手を伸ばす。
 触れる擦れ擦れで掌で包むように動きを止めると、ほんのり鼻孔を擽る香りに杏寿郎は今一度呟いた。


「これは蛍だ」


 知っている。
 この澄んだ夜の静けさのような匂いを。

 蜜璃の持つ甘い香りとも、しのぶの纏う花の香りとも違う。

 儚いながらも確かにそこに在る。
 夜に紛れる彼女の香り。


「もしや蛍ちゃんの持つ能力か? 確か影を操るような…」

「いや。確かに似通っているが、蛍の影鬼とは違う」


 影で作られた花ではない。
 花弁だけは墨のように黒くとも、がく片も柱頭も本来の色で形作られている。
 何より何度も傍で蛍の血鬼術を見てきた杏寿郎だからわかる。
 この花は蛍の術により意図的に作られたものではない。

 それでも同時に確信していた。
 この花は、確かに彼女が成したものだと。

/ 3464ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp