第30章 石に花咲く鬼と鬼
幹の窪み。枝の隙間。根っこの間。
皆でくまなく原因は無いかと探し回ったが、それらしいものは見つからない。
「鼠男! そっちはどうだ」
「やっぱ駄目だ、なんにもねェよ!」
ぎりぎり枝の先に立ち呼びかける鬼太郎に、地面から鼠男が声を張り上げる。
吸血木は吸血木のまま。
うんともすんとも反応は示さず、ただ沈黙を守り続けている。
瑞々しい葉を生い茂らせたまま。
「蛍…巽青年…」
眉間に深い皺を刻み、辺りに常に視線を巡らせる。杏寿郎のその口から重々しさが零れ落ちた。
大木は生命に満ちている。
ならばまだ蛍と巽の命は無事ではないのか。
(…いや。巽青年は吸血木そのものへと変わったが、蛍はそこへ飲まれるように取り込まれた。ということはこの木が巽青年であっても、蛍はもう──)
ばしんッと己の顔を叩く。
びりびりと痛みを感じる程に強い強打は、最悪な結末へと辿り着く思考を止めさせた。
(そんなことはない。蛍は鬼だ)
簡単に命尽き果てる存在ではない。
だからこそ何度も危機を乗り越え、だからこそ何度も葛藤もしてきた。
最初は鬼である自身を拒絶していた。
何度も何度も歩いては立ち止まりを繰り返しながら、ようやくここまできたのだ。
ようやくその心はその身に寄り添い、進むことができるようになった。
鬼としての自身を受け入れた蛍が、こんなことで死ぬはずはない。
「…っ」
死んでもらっては困るのだ。
共に今を生きる為に。
共に未来へと歩む為に。
その為に、
(俺はまだ──)
ふわりと、鼻孔を甘い何かが掠めた。
「…?」
仄かに甘い、優しい香り。
しつこく後を引かないその香りは微風に吹かれればたちどころに消えてしまいそうに儚くて。
はたと顔を上げた杏寿郎は、残り香のようなそれに鼻を向けた。
「これは…」
辿るようにして、茂みのような立派な葉の群の中を進む。
枝を伝い一歩ずつ踏みしめていえば、赤黒い葉の中に異様なものを見つけた。