第30章 石に花咲く鬼と鬼
「しかし木綿の彼も戻ったというのに、蛍と巽青年の木は…」
他の吸血木よりも大きなその幹に近付いて、はたと杏寿郎の行動が止まる。
「…葉が」
巨大な吸血木の大木。
その真下にいるというのに、雨のような葉の舞は降ってこない。
一枚も落ちていないのだ。
赤々と色付く屋根のような葉と枝を広げたまま、それは静かに佇んでいた。
「どういうことだ…っ?」
「ふぅむ……これは」
「親父殿。蛍と巽青年は」
「そうじゃのう…うーむ」
鬼太郎の頭から身を乗り出し、呼ばれた目玉親父がぺたりと赤い幹に触れる。
痩せ細る気配もない堂々たる大木だ。
「のびあがりを退治した今なら、この吸血木も元の姿に戻るはずじゃが…」
「二人分の生気を吸ったからでしょうか」
「じゃとしても、葉一枚落とさぬものかのう…ううむ…」
博識な目玉親父でも計り知れないことなのか。
根本から太い幹、枝、葉へと視線を上げて、杏寿郎は強く唇を結んだ。
「つぶさに探せば何か異変を見つけられるやもしれない。見てくる」
「っ煉獄君!」
幹の僅かな窪みに足をかけ跳ぶ。
身のこなし軽く大木を駆けていく杏寿郎に目玉親父が咄嗟に手を伸ばせば、ぐらりとその地が揺れた。
「むっ!?」
「僕達も行きましょう」
「鬼太ろ…っひゃあ!?」
追うように鬼太郎もまた幹を跳ぶ。
揺れ落ちないようにと目玉親父は咄嗟に息子の髪の中に潜り込んだ。
「待ちんしゃい鬼太郎さん! おいどんも手伝うとよ!」
「手伝うって何するんだよ…」
「鼠男は黙っときんしゃい!」
慌てて後を追いかける一反木綿に、一人取り残された鼠男は髭を指先で弄りながら溜息をついた。
「どいつもこいつも…昨日今日会っただけの奴に必死になり過ぎだろ…」
呆れ目で見上げた先は、覆い茂る立派な葉の屋根。
夜空に鬱蒼と広げる赤黒い葉の群は不気味に映り、ぶるりと鼠男は背を震わせた。
「ったく、しゃぁねぇなァ…ッ」
葉を広げていれば、いずれ花が咲き新たな芽を生む。
これ以上不気味な木など見ていられないと、鼠男も渋々吸血木へと歩み寄った。