第30章 石に花咲く鬼と鬼
「面白いのは煉獄君の方じゃ。蛍ちゃんも巽君も、あの鼠男も怖がっておったというのに。お主は一度たりともそんな態度を見せんかった。儂ら妖怪が怖くないのか?」
「俺が怖がろうと怖がるまいと、出る時は出る。在るものは在る。それだけだ!」
「…竹を割ったような人ですね」
「はっはっは! 気持ちのいい回答じゃな」
屁理屈も細々とした理由もない。
ただそこに在る事実だけを見て受け入れる杏寿郎の姿勢に、鬼太郎の口角も僅かに緩んでいた。
目玉親父の笑い声を隠す程、ざわざわと葉のざわめきが覆い尽くしていく。
しかしそこには蛍が耳にしたような不気味な空気はない。
葉の雨を降らし次々と枝を縮めていく吸血木の数々。
まるで町を覆い澱んでいた空気を払拭するかのように。強い風を巻き起こし、葉は次々と舞い落ち飛んでいった。
「鬼太郎さァーん!!」
「うぷっ…よかった、一反木綿。元に戻って」
「急に体の自由が利かんことなって、もう駄目かと思っとったとよ…! 鬼太郎さんが救ってくれたんやね!」
「僕だけじゃない。皆のお陰だ」
ぐるぐると鬼太郎の顔に薄い体を巻き付けて、わんわんと歓喜の涙を零す一反木綿。
吸血木化が短かった為か、妖怪であった為か。徐々に人間の姿へと形を戻していく町の吸血木よりも早く、一反木綿はその姿を元通りの白い木綿に変えていた。
「そうだぜ、オレ様も活躍したんだからな! 感謝の限りに敬えよ!」
「はははっ君は宇髄のようなことを言うな!」
「うずい? 誰だそりゃ」
「宇髄とは」
「あーやっぱいい、いい。お前さんの仲間だろどーせ(ロクな奴じゃなさそうだからな)」
胸を張る鼠男の隣で闊達に笑う杏寿郎。
彼らが穏やかなのも、町の空気ががらりと変わったことにある。
葉が舞う度に、澱んだ空気が浄化されていくようだった。
目玉親父の読み通り、この町はのびあがりという驚異に脅かされていたらしい。
その存在も無き今、未だ夜の闇は続いているが不穏な気配は何処にも滲み出てはいない。