第30章 石に花咲く鬼と鬼
「今度こそやりましたね、父さん」
「うむ!」
「しかし鬼太郎少年。これでは肝心の人々をのびあがりの術から助け出すことは…」
「そのことなんじゃが、煉獄君」
「む?」
鬼太郎の頭から顔を出したまま、ぴょこりと目玉親父が軽く跳ねる。
「戦国の世にも一度吸血木を見たと言ったじゃろう?」
「ああ」
「あの時ものびあがりが関係しておったんじゃ」
もうのびあがりだったものの切れ端でさえ見当たらない。
全てが消えた黒炭の跡だけを残す地に、はらりと赤黒い葉が舞い落ちた。
「あの時は吸血木の被害も一人だけで、まさかのびあがりが吸血木化させておったとまでは見破れんかったがのう。のびあがりを追い払って暫くした後、被害者は元の姿に戻れたんじゃ」
はらり、はらりと落ちていく。
その葉の雨の中を見上げた杏寿郎は、目を見張った。
「枝が…」
ゆっくりとだが確実に枝を縮ませ小さくなっていく。
赤黒い木々達が次々と連なるように葉を落としていたのだ。
「今回は、のびあがりが目視だけで巽君の吸血木の開花を促した。その時点で可笑しいと思っておったんじゃ。本来の吸血木の開花とは違うからのう」
「では、親父殿が助からなかったと言っていた過去に見た吸血木とは…」
「うむ。似ておるが恐らく違うもの。今回のものはのびあがりが操り易いように改良した種じゃったんじゃろう」
「のびあがりの力を借りて成長する種なら、その大本の力を消してしまえば寄生の力も弱まる。父さんはそう考えたんです」
「成程。突拍子もないものだが、それが妖怪という生き物なのだな」
「のびあがりが妖怪かどうかは定かじゃないがの。確かに倒すことはできたが、またいつ何処で現れるかもわからない存在なんじゃ」
「ふぅむ。成程、面白い!」
「おも…っ面白いか?」
「うむ! なんとも奇妙な存在で俺の理解を上回る! 奇怪で面白い!」
握り拳を作り声を上げる杏寿郎に、目玉親父は適わないとばかりに肩を竦めた。