第30章 石に花咲く鬼と鬼
きゅぃいん、と鼓膜を震わす高音の振動。
それは耳鳴りのようで耳鳴りではなかった。
眩い光が、杏寿郎とは反対の方角から届く。
剥き出した目玉を向けて、のびあがりは更にその目を見開いた。
其処に立っていたのは鬼太郎だった。
人差し指を差すような銃の型を左手で作り、右手でその手を支えている。
差す指の先端が何かを集めるように光を集結させていた。
「今度こそ終わりだ」
みるみる光が大きくなっていく。
それがなんなのか、妖怪の世界に住まうからこそのびあがりも知っていた。
霊気を一点に集中させて放つ光線。
それは鬼太郎自身の霊気だけでなく、仲間の霊気も加えて力にすることができるのだ。
ただでさえ鬼太郎の霊力は強いというのに、そこに他者の力も加わっては。
傍にいる目玉親父や鼠男だけではない。吸血木化された一反木綿からも引き寄せる霊気が一点だけに集結されていく。
その高密度な光を前にして、のびあがりは陸に打ち上げられた魚のように暴れた。
「"指鉄砲"」
一瞬だった。
キュンッと鬼太郎の指先から放たれた光線が、目で追い付けない速さでのびあがりの目玉を貫く。
瞬き一度程の静けさ。
その一度の間に距離を取るように杏寿郎と鬼太郎が左右後方に跳ぶ。
刹那、爆破するようにのびあがりの体は強い光を放って、木っ端微塵に砕け散った。
「むぅ…!」
ばたばたと爆風に荒れる羽織を片手で払って、杏寿郎はその威力に舌を巻いた。
先程の電撃も凄まじいものだと思っていたが、それを越える威力の攻撃だった。
これでは痛手を負い満身創痍だったのびあがりはひとたまりもないだろう。
やがて爆風の煙が去れば、ぱちぱちと青白い炎がのびあがりだったものを焼き尽くしていた。
ほとんど紙切れのような残骸となってしまったそれも、見る間に小さくなっていく。
「これでは…」
妖怪に詳しくなくとも、それがもう生命体でないことは杏寿郎も直感できた。
今度こそとどめを刺した鬼太郎の腕前は目を見張るものがあるが、これでは吸血木から人々を解放する術はもう訊けないのではないか。
そんな一抹の不安が過る。