第8章 むすんで ひらいて✔
新しく始めたのは何も呼吸訓練だけじゃない。
お館様との対面で、私は知っておくべき知識が圧倒的に足りないことに気付いた。
知ろうとしないと世界は見えてこない。
その為の一歩も、踏み出さないといけないことだ。
「鬼殺隊──それは人間に仇なす鬼を狩る、古(いにしえ)に発足した組織のことだ」
「そ、そう! そうなの!」
「政府非公認ではあるが、鬼狩りとしての組織の規模は日本随一。右に出るものはない」
「そうなのよ!」
「俺達が日夜鬼を狩り走ることで今の世を保っている」
「そうそう!」
「そして……甘露寺、」
「そ…っえ?」
「気持ちはわかるが少し口を閉じていて貰えるか。話が進まない」
「っ! ごごごめんなさ…!」
恋柱邸の一室で私と対面する柱が二人。
握り拳を作って何度もうんうん頷き相槌を打つ蜜璃ちゃんを止めたのは、申し訳無さそうに眉尻を下げた蛇柱の伊黒小芭内だった。
その言葉に雷が打たれたような衝撃で頭を下げる蜜璃ちゃんに、言い過ぎたと地味にオロオロし出す。
本当、蜜璃ちゃん相手だと類を見ない優しさを発揮するなぁ、この蛇柱は…。
〝鬼殺隊〟
そのことをより深く知りたいと申し出た私に、快く引き受けてくれたのが、協力すると言ってくれた蜜璃ちゃんだった。
だけど。
『あのね、鬼殺隊っていうのはね、鬼を退治している正義の味方なの! 悪い鬼から人々や世界の平和を守っているのよ!』
『……なる、ほど…』
蜜璃ちゃんの説明は良くも悪くも理解に時間が掛かる。
あまりにぼやっとした説明に、それでも必死に喰い付いていこうとすれば痺れを切らした蜜璃ちゃん護衛の彼が声を上げたという訳だ。
出会い当初は鬼に情報を与えるなって敵意満々だったのに…まさかその彼から鬼殺隊の説明を受けられるようになるなんて。
絶対に蜜璃ちゃん効果だな、うん。
流石恋柱。
「伊黒先生」
「誰が先生だ」
「鬼殺隊に必要なものとはなんですか」
少しでも疑問に思ったことは、その場で問い掛ける。
はいと挙手して質問をすれば、うざったそうに左右違う色合いの目が向いた。
それでも隣で期待を込めた表情の蜜璃ちゃんがいるから、無碍にもできないんだろう。渋々ながらも説明をし出した。
流石恋柱。
蜜璃ちゃん万歳。